ナンパマン、流行りのナイトプールで常識を覆される

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私、流行りの、ナイトプールというやつに行ってきました。

知ってますか、ナイトプール。
都内で言うと、ホテルニューオータニや、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ、グランパシフィック LE DAIBA、ホテルイースト21東京なんかが夜間にビジターにも開放している、いわば夜いけるプールです。
今回、私が行ったのはニューオータニでして、通常平日だとプールに入るだけで8000円、土曜だと12000円もする脳内アロハの大人スポットです。
私はBくんとmenonsoupさん=メノンさんの三名で、宿泊込みのプランで行ってきました。

恥ずかしながら我々、トリプルのお部屋で、男三人が同じ屋根の下、鼻の下を伸ばすというナンパマンとして画期的かつ前衛的なプランにて布陣。宿泊代もプール代も込みで一人およそ17000円でした!

当初Bくんからナイトプールの提案を受けた時は、その価格に新大陸発見ばりの驚愕を隠せなかったのですが、今思うと17000円からプール代の8000円を引いて、さらには朝食バイキング3000円を引いてみると、なんということでしょう、6000円でニューオータニに泊まったことになります!これは意外とお得な攻め方をしたのではないかと自負しております。まさに肉を切らせて骨を断つ!というものです(一体私は誰の骨を断ったかは定かではありません)。

しかし、どうですか、聞くだけで恐ろしいでしょ、塩素どころかリア充の香りがするでしょ。
そうなんです、数年前から徐々に浸透してきたナイトプールは、モデルや読者モデル、パーツモデルを始め、おしゃれなインスタグラマーや、リア充な香りをさせて生きていたい女性や、それに群がるナンパ男性で近年人気スポットなんです。

随分と毒があると思われそうですが、実際行ってみるとそこには様々な人間模様が広がっていました。

 

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まず部屋でひとしきりニューオータナーな気分にひたり、一路ナイトプールに向かったオズ、B、メノンは、早速入り口で、大行列に出くわします。

それは流石に六本木のV2ほどではありませんが、それでも30人位は並んでいます。時間はナイトプールタイムの18時頃。
我々はそんな行列を見て、一瞬尻込みしました。
が、もしやここはビジターの皆様が、イモータンジョーに水を乞うあの光景の再来ではないか、我々のようなホテル宿泊客は同じ扱いにされるのか?という疑問を持って係のお兄さんに聞いたところ、はいどうぞと、並ばずにすんなりインできました。
この時の優越感を僕は末代まで語り継ぐつもりでいます。結婚相手はまだいません。

さて、中にはいると、微妙な人数。それもそのはず、最初はほぼ宿泊客のみで、声をかけるギャルもいません。なんならわんぱくな子どもが、我々の欲望を知らずにジャンプ飛び込みで欲求を解消していたくらいです。
欲求不満の我々は、仕方なくプールの一角の椅子を陣取りました。(この椅子も後ほど満員になって取れない状況になっていたので、優越感を感じたい人はドンドン取って末代に語り継ぎましょう)
そして、我々は高なる鼓動を抑え、さもニューオータニなんて怖くないもんね、という面持ちで、敷地中にあるバーにビールを飲みに行きました。
ビールは勿論900円からです。安い!安すぎて買うのをためらいました!流石に安すぎますよね、ナイトプールに来る大人だからこれくらい払えますよね!!
乾杯して小一時間、他愛もない話をし、財布の様子をうかがいながら二杯目のビールを飲むかどうかに戸惑いつつも夜になってきました。

気が付くとピチピチの水着をきた、可愛いギャルたちが入ってきているではありませんか。
遂に遂に遂に!ナイトプールの幕が切って落とされました!!

 

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しかしニューオータニのプールは、実はなにぶんそんなに広くありません。というか全然香川県くらい狭いっす!声をかけまくったら目立つこと必死。
数の声掛けをするのはあまり向きません。
どれいく?どれいく?Pool ft. Drakeと男三人半裸で肌寄せ合いながら温めあっていると、やはりそこは世界の切り込み隊長Bくんが突撃、それに習うようにメノンさんも突入してしまいました。
そんな二人の勇姿を尻目に、実は私、リアルガチでナンパをするのが随分久しぶりで、プール地蔵ことドザエモンになっておりました。表向きは「俺なりの作戦で行くから」と二人にはいいつつも、温水プールの生ぬるい水なのに震えが止まりません。

しかし、そんな僕も、実は糸口を見つけていたんです。
さあナイトプールナンパしたい諸兄方に読んで欲しいのはここからです。ここからが僕なりの戦術です。いまなら無料です。

まず一番ナンパしやすいのはプールの中か、バーのあたりです。
プールサイドでも、全然できますが、目立つことで他の女子から見られるため、ナンパ目的感が出てしまいます。それを打破できる実力か運があれば問題ありません。
ちなみにアホみたいに写真を撮っている子ばかりなので、そこで写真撮るよ声掛けも有効です。
しかしながら、そんな甲斐性は勿論微塵もないので、私はプールの中で落ち着いて女子と遭遇し爆破を試みる、その名もUボート作戦をおすすめします。
水の中での方が、相手が逃げにくい、浮輪等の持ち物いじりができるなどメリットが有ります。それにプールの水の中は、和んだあとイチャイチャしてもバレにくく、メンタルとフィジカルでくっつくことができるからです。あと大切なのはプールをそもそも楽しんでいること。かと言って大学生みたいに、ギャハギャハはしゃぐのとは違います。そしてナンパにギラギラしているのもやはりおすすめしません。


これはしかし私のクラブでの立ち回りと同じです。フロアで踊る、楽しそうにしている、一緒に楽しもうのスタンスで仲良くなり、という感じですね。


やはり価格的に大人なこのナイトプールに、8000円も払ってナンパだけされたい女子はきません。基本スタンスとして「楽しいことがしたい!」「気になるイベント事に参加!」「リア充感出したい!」「有名インスタグラマーに憧れて」と言った動機で訪れているはずです。そんな子たちをガツガツナンパしても煙たがられます。求められていません。ましてナンパ慣れしたカワイイ子が多いので、余計です。
なので、ここはUボート作戦で、プールをエンジョイしつつ、落ち着いて相手のテンションに合わせて話しかけましょう。
上記のことを考えていると、狭いプールが功を奏し、横に女の子がまさしく流れてきます。そこでもってさらりと話しかけます。
そうして数組話しかけながらも、あれ、坊主。
でトイレばかり近い私。

気が付きました、バンゲ難しい。
なんせプールにスマホもってきているのは、防水ケースに入れている子くらい。Uボート作戦の最大の欠点でした。
とは言いつつ、私、気が付くとBくんとメノンさんが絡んでいた女子二人組と和ませていただきました。
その後もその二人組のうちの一人、黒水着さんとプール内で、可能な限り常識の範囲内で、CM上の演出です、程度イチャイチャし、ここで伝家の宝刀を持ち出しました!

「泊まっているから部屋に遊びに来なよ」

見事、オーケーをいただきました。

(しばらく会わねえうちになんだか嫌な大人になっちまったな…オズさんよ…)

 

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忘れる前に、ビジターでプールに来るナンパマンの難点をお伝えします。
ニューオータニではほぼ100%プール即はできないでしょう。
水は透明で人でうめつくされてるほどでもなく、かと言って広くないので、変なことしてると絶対バレます。バレてもいいならやってください。あとは知りません。
他にトイレは更衣室内しかないし、隠れる場所はありません。
なので、即を狙うなら、そのまま女性とプールから上がって、外で合流してホテル直なのか、居酒屋いくかなどする必要があります。8000円プラス、中でのアルコール代、さらに連れ出し後のことを考えると

…断言します、高っす!

わざわざナンパ目的で行くなんてお金に余裕のある人だけかなと思います。
ナンパだけを目的として行く価値は、ワタクシ的にほぼありません。


さて、本文に戻りましょう。
そうして部屋に釣れだした、もとい連れだした二人と、私とBくんで他愛もない話をしながら、Bくんに無理やり相方をショッピングセパをしてもらい、私は黒水着さんとセ◯クスの運びとなりました。Bくんに100%助けていただき、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

そんなこんなで女子二人は深夜に帰宅し、ナイトプールの一夜は終わりました。

しかし、私、Bくんとメノンさんと三人同じ部屋で泊まり、一緒にプールでわちゃわちゃし、メノンさんがドンキで買ったドライフルーツのおつまみや3000円もする朝食の、ポークソーセージに文句を言ったこの夏のことを忘れません。
純粋に楽しかったです。
そうして思ったんです。ナイトプールに来て写真を撮りまくって、フェイスブックやインスタやツイッターに上げる女子達を見て。
8000円も払ってビジターでナイトプールに来た子より、宿泊客しかいない朝一のホテルのプールにいる奴が真のリア充だと。

決してメディアが創りだした常識に流されてはいけません。

 
                         〜オズ著「ナイトプールと、その不確かな壁」より抜粋〜

 

 

 

 Photo by YangChen(TW)

ナンパから毛が生えたならば、その毛並みをどうしようか?

毛玉を取るようになりました。

靴を磨くようになりました。

行きつけの美容院ができました。

ワックスがロレッタになりました。

香水を買いました。

シャンプーをノンシリコンにしました。

ネックレスをつけるようになりました。

流行を追うようになりました。

EDMを勉強しました。

人目を気にせず、クラブで踊れるようになりました。

仲間ができました。

けれど、何度も一人で六本木発の始発で帰りました。

本やブログで勉強しました。

やがて、何度も女の子とタクシーで帰るようになりました。

楽しい日々がやって来ました。

気が付くと年収も倍になりました。

するするとお世辞が出るようになりました。

知り合いのバーテンもできました。

適当なことを言うようになりました。

相手の心を読み取ろうとばかりしました。

嘘が見えてきました。

やがてみんな信用できなくなりました。

全てがどうでもよくなりました。

何もなくなりました。

恋がしたくなりました。

恋をしました。

一夜で結ばれました。

温泉に行きました。

時計をもらいました。

「来週の土曜日あそぼ」と送りました。

仕事をバリバリこなしました。

「やっぱり別れましょう」と送られてきました。

笑いました。

大いに笑いました。

金曜日の夜、僕は静かに映画を見ています。

ビールに口をつけると、アルミの香りが口いっぱいに広がります。

映画の中では、才能と努力で、恋も仕事も成功しています。

自分は道草を食っているんだと気がつきます。

だからこうしてブログを書いているんだと思います。

これは楽しいかもしれません。

そしてまだ、続きます。

 

毛玉はいくら取ってもなくなりませんから。

 

 

 

人間礼賛。〜Pairsで出会ったら、富士急もびっくりの高飛車が来て振り落とされた〜

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僕は代官山で一人、知らない女を待っていた。
その女は、Pairsで出会った女だった。
いいねの数150。アプリ的には全くたいした数ではないが、写真はキレイ系でスト値7くらい。
まぁこういうのは、たいてい会ってみるとスト値2くらい下がるから、大した期待もせずに、冬の寒さを堪えていた。
ちなみにいいねの数とスト値はあまり比例しない。
ヘビーユーザー、アカウントつくりたて、課金者ほど上位に行きやすいような、アルゴリズムになってるだけだと僕は推測している。


さて、広告代理店に務めるというその女はいかにも高飛車で、上から目線の、いわゆるキラキラ女子の典型だった。
たまにクラブに行く、男からはよく誘われる、エステ行ってきた、ネイルの写メ…僕にとっては、非常時じゃない非常出口くらい非常にどうでもいいことだらけで、誇大に自分を見せようと言うその自尊心がむしろ、生の葉野菜くらいエグみを帯びていた。
いや、エグすぎてちょっと面倒くさそうだし会いたくねーなくらいだった。
で、お前の中身はどうなん?

ほれほれ、あれだ、PUAたるもの失う覚悟で女の下手に出るな的な、最近で言うマウンティングする的なあれで、僕はそっけなくLINEをたまに返し、そしてたまにマメに返し、なんだかそれが功を奏した。
電話をしたいと言われ、電話嫌いだな〜とリアルな感情を交えて電話をし、盛り上がってきたところで5分で切るという、またもベタな作戦を繰り広げ、ああこんなベタな作戦を冷静にやってるうちは永久に彼女できね〜なちくしょうと独りごちた。
ナンパの経験で溜まった永久不滅ポイントが、カードの返済よりも重く、僕の心の咎になってしまった。


電話そのものをしている感じ、ああ、やっぱりキラキラ系女子ね、という認識に変化はなかった。向こうペースで会話し、かと言って何も面白い話も出ないし、こっちが気を使って相手の気をのせていくアレ。
まぁそこで焦らずヘラヘラもせず、淡々とツッコミを返した。
相手が行きたいカフェがあるというので、昼アポになった。
そのカフェというのが、僕も行きたかったので、別に即にかかわらず楽しんで出かけることにした。
会う前のIOIは明確になった。

前日女子会で朝まで飲んでしまったという女は、そもそも元々2時に待ち合わせしていた時間を3時半でおねがいと指定してきた。
僕は人の時間を奪うことも奪われることも嫌いである。
特段の理由もなく、平気で待ち合わせ時間をかえる人間は信用しない。
もうその時点で僕は、映画AKIRAで、鉄雄が「金田のバイクはどこだよ?」と山形に尋ね、山形がなにも答える前に「どうでもいいや、あんなバイク」という、まさにそんな状態だった。
土曜日も仕事をしていたせいで、大切な日曜日をナンパ脳だけで良かった悪かったと台無しにしたくはなかったので、僕は、お子様は真似しないでください的な暗澹たる気持ちを、さっと切り替え、女を待った。

やってきた女はお姉さん系かとおもいきや、思ったよりカジュアルで、スト値は6になった。
可愛いは可愛いし、確かにモテそうである。
しかし…。

会った瞬間いそいそとまくし立てるように話し始めた女。
緊張して逆にしゃべるタイプか、結構こういうのに慣れているタイプかどっちかなと考えていたが、結局慣れているという結論を下した。

「あたしこう見えて地図読めないから案内して」

自己評価どうなってんだこいつと思いながら、人混みの代官山をカフェまで連れて行く。
歩く間、スマホをめっちゃイジる。
イジりまくる。
ナチュラルに。

ナチュラルに死ねと思いました。

カフェに着いた。

「あ、なんか思ってた雰囲気と違う。お腹すいたからパンケーキ食べたい」

「家で食え」
と心の声をそっと、封じ込めた。

ここまでの展開で、文面だけでは全く僕がイニシアチブを取れていないとおもわれるかもしれないが、イニシアチブをあえて預けている状況、と思っていただきたい。とんでもない妄想かもしれない。

別のカフェに向かう間、女にこう尋ねた。

「いつから彼氏いないの?」

「半年前」

「とは言え恋愛は?」

「うん年収もあってイケメンでいいなと思う人が年末二人くらいいたし一緒に過ごしたりしたんだけどなんか向こうから来なかったんだよね私も私で向こうから来てくれたらオッケーって感じだったけどこう情熱的な気持ちにはなんなくて」

「お前それ、性格ブスやからフラれとんねん」
という言葉を押し殺して、

「まぁタイミングってあるよね」

と無難オブザイヤーを受賞した言の葉を繰り出した。
その後も、私はモテるんだけどいい男がいない。
いい男と会っても…
的なもうほんとその自信過剰っぷりやばいな、核融合的な未来のエネルギーかよと思うレベルで、そして空気的にグッバイすることもできず別のカフェに入った。

ナンパ師としてと言うか、人として戦線離脱して一切の人間的興味を失った僕は、それでも最低限相手に不快感を与えぬよう振る舞った。
30分位でグッバイするまでの苦痛の時間が始まって、恐らくそれを察した女も僕への興味を薄めていった。
まぁスマホを触る、あくびをする、寒いとか言う。
つまんないわたしぃ〜、サインを連発され、こんな大人になってはいけませんよっていう教則ビデオのために動画を撮ろうかと思った程だった。
30分後、僕がおもむろに帰ろっかと言うと彼女も、ウン、といい、駅で別れた。


帰る方向が同じだったのに、わざと違う方向に乗った僕は、結構いい年なんですけど。

これが例えばZoyyさんやロンブーさんやKくんとかなら即れたと思う。なんとなく。
しかし、ひどく反省した。
何を反省したって、貴重な時間をなんとなく一緒にいたくねーなっていう人といてしまったことだった。
なにより向こうにも失礼だし。

時間だけは全ての人間に平等に与えられたものである。だから人生で一番大切なのは時間である。時間だけは大切にしてもらいたい。

今日言いたかったことはそれだけです。

 

 

では、道徳の時間を終わります。

 

 

 

起立!!!

 

 

 

ナンパでエゴが、膜を突き破る時。

2015年12月は、第三週の週末金曜日。クラブの終わった朝六時の六本木の路上、駅への帰り道で、僕は寒風の吹きすさぶ街を静かに歩いていた。気分はもう、「炎のたからもの」のように。

 


炎のたからもの / ボビー(1979年)

 

僕は、腹の底に、たった一晩だけで、錆びた鉄のような重苦しいエゴの情念を貯めこんだ。

久しぶりの感覚。エゴの情念は怖い。相手のことを人とも思わない殺戮に近い。思い出すだけで憎悪が走る。

やり逃げする男、金目的の女、自分本位な人間。

しかしそういったものに対して、鈍感になってしまえば楽なものを、なぜ僕はそこまでナーバスにうけとめるのか。

ああ、そういえばこの街は、はじめて訪れた時から、何一つ変わっていないのだった。

 

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■午前0時に戻る。

友達との年末的な飲み会を切り上げて、僕とはそれこそ二年来の付き合いとなるarataくんが六本木で飲んでいるというので、お邪魔させてもらうことにした。

しかし新宿からタクシーが全く捕まらない。隣にBOOYAHのPVに出てきそうな黒人の男がいたので、話しかけると、どうやら彼も六本木に行くらしい。とりあえず意味など置いておいて彼と相乗りすることにした。

女をナンパすることに意味が無いように(語弊は後生で言ってくれ)、彼と一緒にタクシーに乗ることに意味などないのだが…。

BOOYAHと共に10分粘ってタクシーをどうにか捕まえた。乗り込んだタクシーの運転手は投げやりに行き先を聞いてくる。年末感が彼からも漂っていた。白髪の混じったこの運転手にはパーティバーレルを待ち望む、暖かい家庭などあるのだろうか。心の中で自然にこの運転手を軽蔑している自分に気がついた僕は、静かに自省し、窓外を見つめた。

すると、運転手が突然話しかけてきた。

「今日は、一年で一番忙しい金曜日なんですよ」

僕は運転手の思わぬ優しげな話し方に、戸惑いながらも耳を傾けた。

「忘年会終わりでタクシーが三時くらいまで捕まらないでしょうね~。ほら、窓外見てください」

僕が過ぎ去る道路を見ていると、たしかに手を上げた人々がわんさか立っていた。

「…まるで葬儀の列みたいですよね」

運転手は笑いながらそういった。

僕はそれを聞いてぞっとした。

運転手のその言葉には、きっと最大限のタクシーを待つ彼らに対する軽蔑が宿っていたに違いない。

僕の視界に映った、楽しそうに酒を飲んだあとの客達が、一気にこれから死体になろうとする有象無象に変わってしまった。まるで映画アメリカン・スナイパーのラストシーンのように。

運転手からすれば、いわんや、客からしても、主役は自分自身であることにほかならないのだと、ひどくさめざめしい気持ちになった。

人は人を見下すことで、自分なりのアイデンティティを保って生きているのだと。

 

BOOYAHはまるで我関せずと、スマホをいじっているのだった。

彼もまた、彼自身で主役を張って生きているのだろう。

 

六本木交差点につくと、僕はBOOYAHと運転手とあっさりと別れた。

何の交わりもない、都会的な数十分だった。

 

早速arataくんの待つ居酒屋に行くと、他にもナンパ師さんがいて、温かく出迎えてくれた。

スト道さん、エッグさん、heyheyさん、そのお友達(名前失念しました)、あとケインコスギさん(絶対名前違う)。

これでもツイッターでナンパアカウントをはじめて二年半、ずいぶん遠くまで来てしまったと思うことがある。

いつのまにやら、ナンパ師飲み会にいっては、新しくナンパを始めたアカウントの方には、礼儀正しくご挨拶していただき、古株の微妙な空気感でもてはやされ、まるで売れていない中堅芸人のような若干粗末な気持ちになるのだった。

もっぱらそれというのは、アカウントを始めた頃にいた彼女を超える女性と付き合ってもないし、本気でいいなと思う子を落とせるに至ってもないし、こと恋愛においてはナンパしたからと言って僕の恋愛観はむしろ迷宮入りしたからに他ならない。

だからあたらしい方にかしこまって挨拶され、おまけに「知ってます」とか、「ブログ読んでます」と、言われると、俺バックパッカー二年してたけど社会に復帰しようとしたらコンビニバイトしか見つからね~的なエグさが自分の中でモワッと広がるのを、ただただ実感するだけなのだ。

 

さて、ドカンと出てきた安っぽいレモンサワーをちびちび飲みながら、arataくんと神妙に恋愛観や将来の話をしている。ナンパの話?ん~そうだな、今すぐこのエントリーを読むのをやめて、ザ・ゲームを読んでろ、これは本気で思うことだ。

 

■午前二時。

居酒屋を後にしてクラブへ向かった。

久しぶりの某クラブは、街の忘年会の勢いをものともせずに、オリジナリティあふれる客数で、広々としていた。その時はそのクラブの見慣れた風景に安心感を覚えたが、三時間後に僕は、フィルターをぶち壊して真理に到達することになった。

 

とりあえず乾杯し、踊り、いざ久しぶりにナンパしようと思うにも全然言葉がでない。

包み隠さず言うと、正直ここ最近、クラブでは負けていなかった。

だからといって声もかけず、バンゲもせず、非常に省エネに物事を遂行して、なんだかわからないが結果が残るような状態だった。普通に楽しく踊っていれば楽しい人が寄ってきて、楽しく時間を過ごせば楽しく帰る。ただそれだけのことだった。

そもそもクラブで出会いなんて端から期待も信用もしていないし、いい出会いなんてあってもほんの一握りだから(ないなんて言わない、将来の夢と同じで)、過剰に何かを求めることもなく、過剰に自分を作り出すこともなく過ごしていた。

よく言えば無我、悪くいえば停滞だった。よく言えばナチュラル、悪く言えばチキンだった。よく言えばぽっちゃり、悪く言えばデブだった。よく言えば都内、悪く言えば西東京市、そんな感じだった。

 

しかしその日の某クラブは、そんな甘えを許してくれるような安直な環境ではなかった。

広く開かれた大地にはあまりにも女性が少なく、おまけになんだかみんな、結構な人数がぽっちゃりなさっている。

二年もクラブでナンパしていると分かる、直感的に「今日は収穫ゼロだな。見えるんだよ、ゼロの焦点ってやつが」と、リンゴ農家のおっさんみたいなことをつぶやいた。

 

恐る恐る、色んな意味で勇気を振り絞って二、三声掛けしてみるものの、これまた予想を超えるほどに彼女たちは至極内気で、内輪で、デリケートだった。

こんなことなら最近行った某箱のほうがよっぽどだと思った。綺麗でスタイルもいい子も多くて、けど、反応もこの箱に比べると遥かにいい、あの箱のほうが。

最近行ったクラブの中でも、群を抜いて逆にハードゲームだったと思ったのは俺だけだろうか。

懐かしくて安心する景色だったはずが、その風景は、まるで大学一年生の時に上京して戻ってきた頃の地元のように、霞んで見えた…。

 

■午前五時。

クラブが終わった。

この時間にナンパしてもロクなことにならない(向いてない)から、おとなしく帰ろうともおもったが、何だがもやっとしたままの僕の心は、地縛霊の怨念よろしく六本木の路上にとどまろうとしていた。

六本木の路上はまるでアメフトの試合ばりに通り過ぎる女の子にぶつかりナンパをする男と、道化のように着飾ったカナリアみたいな女の子で溢れかえっていた。

相変わらず、その光景は中原中也の「サーカス」を思わせた。

 

 

“幾時代かがありまして

茶色い戦争がありました

 

幾時代かがありまして

冬は疾風吹きました

 

幾時代かがありまして

今夜此処でのひと盛り

今夜此処でのひと盛り

 

サーカス小屋は高い梁

そこに一つのブランコだ

見えるともないブランコだ

 

頭倒さに手を垂れて

汚れ木綿の屋根のもと

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

それの近くの白い灯が

安いリボンと息を吐き

 

観客様はみな鰯

咽喉が鳴ります牡蠣殻と

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

屋外は真ッ暗 暗の暗

夜は劫々と更けまする

落下傘奴のノスタルジア

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

 

 

でも僕はその時僕自身がサーカス小屋にいるとは気が付かずに、ただ一人の主人公として歩き出した。

ふわふわタイムに入っているスト道さんと一緒に、目の通りがかったいかにもクラバーな女の子二人組に声を掛ける。

女の子二人組は、夜遊びが大好きで人生の一番楽しい時なう、という大風呂敷を広げたような態度で、まさに上から目線で僕らを扱ってきた。何だがオレオシェイクみたいな女と、青森のホワイト六片みたいな女。なめてくる女になめられたら終わり、という木更津あたりのヤンキーセオリーを上手く張り巡らせ、それでも食い下がった。スト道さんはというと…トークがやばい、そしてちょっと眠そうだった。

軽いセクハラをいれても特に拒否るどころか、ノリの良いホワイトを僕が担当した。

オレオとホワイトの、巧みでありがちで幼稚な腹減ったコールに、普段なら光の速さで放流する僕だったが、なんとなく負けない気もした。きっと見た目は刺さっている、それはというのはもはや二年の経験値からなるただの勘なのだった。ただしこの勘はよく外れる。

そのまま、じゃラーメンなら、という流れで店に入った。勿論ラーメン代はこちらが出すのだが。

そして、スト道さんはというと…やはりトークがやばい、そしてちょっと眠そうだった。

 

■午前六時。

店に入ると特に食欲のない細身の僕とスト道さんを置いて、ぐらまらすなオレオとホワイトがラーメンを食べだした。二人はトレインスポッティングのドラッグ中毒者のように、ひどくつまらない事で笑い合っている。

あはは、あははと魂のない相槌をうつ僕に対し、スト道さんはというと…トークがやばい、そして結構眠そうだった。

そのうち気が付かないうちに、僕らはどこかのタイミングでミッドウェー海戦を終えていたようで、女の子たちはじゃいこっかと立ち上がった。僕は次の展開を必死にイメージして策を案じていたが、スト道さんはというと…トークが…あれ、眠っている。

 

そんなこんなで店を出たが、スト道さんは山本五十六バリの察知能力で、既に戦線離脱。スト道目線電報にはこう記されていた「敗戦濃厚ナリ、直ニ離脱セヨ。」

一人それでも彼女たちが楽しそうに話す合間に入り込もうとしたが、もう僕は存在を消されたCIA職員のように無視を決め込まれ、オレオとホワイトから放流された。

オレオシェイクとホワイト六片は僕らといた数十分間を無色透明なものにし、別のクラブへと入っていった。

彼女らの、全てに背を向けて無色透明にするその態度。

久しぶりの感覚だった。

それは自分の能力や外見全てが圧倒的に否定される瞬間だった。

 

ナンパを繰り返し、麻痺していけば、あるいは、心頭を滅却すれば火もまた涼し状態なれば、どうってことない日常だが、しばらく忘れていたこの、圧倒的無視の感覚に僕は一瞬記憶の海を彷徨った。

 

ふわっと浮かぶのは、中学生の頃に好きな子に告白して、あっけなくもフラれたあの帰り道。

木枯らしに葉っぱを落とすケヤキ。落ちて車に踏まれたグチュグチュのケヤキの葉っぱの臭いが、乾燥した鼻の奥まで流れ込んで来るようだった。

誰か僕を、ナイーブ畑でつかまえて。

 

怖い、怖い、怖い。

恐ろしいものにまた出会ってしまった。

自分が道具のように扱われるその瞬間、僕は人間たらしめる精神を湛えた人間ではなく、あくまで彼女らが主人公の、ただのそのピースとして扱われる瞬間。それがどれだけ恐ろしいことか。

ナンパにおける六本木という街が一番怖い瞬間だった。

ここでは、人がエゴを剥きだしにした野生の動物になる。自分の目的のための手段としての彼、彼女を使い、自分の快楽のためにただ正面切って騙し合う。

そしてそんな日常に触れるうち、自分も気がつけばエゴで人を潰し、エゴで騙し、エゴと仲良くする、どうしようもない人間になる。

一番怖いのは、それをやってのけていた自分に気がついたことでもあった。

 

行動すれば見えてくるあらゆるものの真の姿。

それを見せてくれるのがナンパなのだ。

駅までの遠い遠い帰り道、僕の腹の底には、タクシーに乗った六時間前から、エゴという他人の情念が蓄積され、テキーラで麻痺した胃の粘膜を突き破って地面にボトボトと落ちていった。

ナンパが見るエゴは、胃の膜を突き破って穴を開けただけでなく、脳みそにも金属的な後遺症を残して、僕を今まさにこのブログに向かわせたのだった。

 

自分が主人公の人生だからこそ、気持よく生きていたいけれど、その気持ちよさは、穴に入れる気持ちよさを超えた、そう、例えばカリオストロの城のルパンや銭形のような、そんな人間になる気持ちよさじゃなかったのだろうか…。

 

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思えば遠くまできたもんだ…。

 

 

 

 

関東VS関西・24時間ナンパ対決② 〜跳ねなくなった日常へ〜

 

人間は線路を走る列車ではない。

列車のようにレールから外れると途端に脱線して事故になることもなければ、ブレーキが効かずに壁にぶつかって粉々になることもない。
 
我々は、壊れてしまえば元に戻らない最先端機械でもなければ、知能の低い動物でもない。
 
我々は人間なのだ。家族のために命を投げ出し、あるいは恋人のために身代わりとなり、災害があれば誰かを助ける。
春の萌ゆる緑に生命の息吹を感じ、夏には暑さに負けぬ情熱を燃やす。
秋には枯れゆく草木に哀愁を覚え、やがて冬の厳しい寒さの中でも、人の温かさに愛を感じるのだ。そういう生き物なのだ。
人は簡単には壊れない。
人は人を、生命を愛するものだ。ただそれが偽善と言われようと、理想と言われようとも。
 
 
果たしてあなたは、どんな人間だろうか?
 
 
 

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五月三日  午前11時  大阪 某ホテル
 
 
ホテルの一室に来た僕の目の前には、上半身はブラ1枚で、下はスカートにストッキングを履いた半裸の女性と、それを取り囲むように、ほぼ全裸のナンパ師数名がいた。
ビジネスホテルの狭い部屋にところ狭しと男がおり、その中心に半裸の女ひとり。
 
異様な風景。
 
これがナンパ師の日常…それで片付けるには僕の経験値が追いついていなかった。
部屋には人の体臭が立ち込めていた。温水プールみたいなもわっとする空気に、夏の更衣室のような臭い。
かといって別に淫靡な空気でもないのが不思議だった。いや、むしろ怖いほどに 和やかな空気。
でもこの空間には微妙な一本の線で均衡を保っていて、恐らくその線は、僕らの背骨の辺りから手繰り寄せられ、そして彼女の膣の中にすすすと伝い、更に奥底の方へつながっていたのだと思う。
 
理性と衝動の間で。
 
その子は周囲の下ネタにも、あるいは直接的な接触にもあくまで笑止と受け、あっけらかんとしているように見えた。周囲の男らもぎゃははと笑ってみたり、あるいはうっすらと気を使うように笑ってみたり、あるいは全裸になってみたり。
ふとテーブルを見ると、そこにはただ、空いた酒の瓶がさめざめと並んでいた。
兵どもが夢の跡…。
 
 
 
ナンパをして実際に思ったことは、3Pや4Pなんて日常で起こるし、居酒屋や、街の暗がりや、トイレでセックスなんて当たり前だし、状況さえ揃えば人前でフェラだろうと乱交だろうと、会って1分でセックスだろうと、何でも起こりうる世界なのだ、ということだった。
 
結局、モラルと理性と世間体でがんじがらめになった堅苦しい人間は、ひとつそれをはずしてやるだけで、転げ落ちる可能性が、誰にでもある、それだけのことなのだ。
すなわち人は柔軟であり、機械と違って壁にぶつかっても壊れて直らないものではないし、レールから外れても事故が起きるわけでもない。
ただただ柔らかい、そして気色の悪い生き物なのだ。
この気色の悪い生き物の性質は、今も変わらぬ野生の魂から湧き出てくる生命のパワーでもあり、人類が恐らく最後まで戦い続けなければいけない暗黒の性質だと思う。
 
僕はこれまでナンパをして、一体どこまで来たのだろうか?
ここは正解か?
あるいは不正解か?
あるいはまだまだ遠い道のりなのだろうか?
 
そうして、硬い頭がとろとろの鉄のようになったところで、改めてもう一度部屋を見渡した。
相変わらず、部屋の中にはところ狭しと男たち、そしてその中心に半裸の女ひとりだった。
 
何かこの空気に耐え切れなくなった僕は、昼食を摂るといい部屋を離れた。
言い知れぬ感情がどんどんどんどん湧きだしそうだった。
 
キチ◯イ。
 
ただのキチ◯イども。
 
僕もキチ◯イであって、人がみなキチ◯イでない証拠は?
 
遭難し絶望的な空腹で、唯一生き残る術は、目の前で先に死んでしまいそうな愛する人を食うことだとすれば、それを食えるか?
愛する人がカラダを差し出したらそれを食って生き残ることが愛か?
幼い子どもが家で待っているのに、子どもを残して一緒に死ぬことが愛か?
人肉を食うことが愛、そんなことがあるのだろうか?
 
他人は殺せるか?
殺せない。
でも言葉もわからない、肌の色も違う、TV上でしか見えないどこかの誰かなら殺せるか?
恋人や親兄弟が殺される代わりになら、知らない民族の人間を殺せるのだろうか?
 
 
 
 
ホテルを出ると、さわやかな陽気に、燦々と大阪の熱い太陽が照りつけていた。
時計を見ると対戦の始まる時間を過ぎていた。
 
 
ああ、僕はナンパ対決をしに来たんだった。
 
 
すべてを忘れて女とヤりまくって勝ちにいく。
 
 
僕はそれだけを誓った。
 
 
 
 
関東VS関西・24時間ナンパ対決、ついにゲームは始まる。
 
 
 
 
 
つづく。
 
 
 Photo by knock

関東VS関西・24時間ナンパ対決① 〜空転する前夜〜

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五月三日  午前4時  大阪 某ホテル
 
僕とS子は、いつまで経っても蒸発しない汗だくの体を、ピタっと寄せ合っていた。ビジネスホテルにありがちな、通気性が最悪なてろてろの安っぽい掛け布団とシーツの中で。
 
京都から遊びに来たというS子は、隠すべき理由もなくなった小さめの乳房をあらわにして、眠っている。
 
しかし僕は、S子とは裏腹に、全く眠ることができなかった。自分でも訳のわからないほどに脳がフル回転して興奮していた。頭のなかはまるで轟音でアイドリングするF1のようだった。
夕刻に東京から来て、そのまま関西関東九州ナンパ師飲み会で酒を飲み、騒ぎ、更に居酒屋でも酒を飲み、騒ぎ、クラブでも踊り、S子とも激しく求めあったにも関わらず。
僕の目はバッチバチに冴えていた。まるで危ないドラッグをキメた人のように目を見開き(実際映画でしかそんなものは見たことがないが)、高揚さえしていた。
これは明らかな対決への気合とプレッシャーだった。まともにストリートナンパなど半年以上もしていないショボ腕の僕が、せめて関東チームの足を引っ張らないように。そして対戦相手のマニーさんは1ヶ月で14即というのを聞いて、ますます気持ちだけが競っていた。
考えるだけで鼓動が早くなり、まるでセンター試験前夜の気分だった。なにをしても不安が頭をよぎる。自信ありげに「4即くらい出来るでしょ」と関東チームに豪語しても、女の子を前に道に立ちすくんでしまう自分や、何事もなく朝になってクラブを出るようなことが頭を駆け巡り、不安をテンションでごまかすしかない、言いようのない圧迫感があった。
そんな中で、明日に向けての前夜祭で、運が良かったとはいえ、クラブに入ってからものの30分ほどで連れ出し、即をした。勢いが少しだけ確かなものになった。
 
 
 
五月三日  午前1時  某クラブ(3時間前)
 
初めて入る箱。一緒に入ったきゃりーさんとカウパーさんに丁寧に中を案内してもらった。
人見知りまっしぐらの僕は、言い知れぬ不安を覚えた。そしてこんな時は…踊るしかなかった。ぽんさんととりあえず踊って、酒を飲んだ。
ふとバーカン近くで一人、つまらなそうにスマホをいじるS子をみて、私は貝になりたいばりの僕は、ようやく関西でのひと声かけ目を発した。
 
「めっちゃ…つまんなそうやん」
 
「友達先帰ってしまって、朝までいよかなって」
 
「暇人か」
 
「だって…」
 
「俺と飲む?踊る?」
 
「飲んで踊る!」
 
S子はバーカンで有無言わず自分のドリチケを出した。
 
「奢ってほしーわけちゃうから」
 
僕はそんなS子を一発で気に入った。
僕は僕の基準でいいと思った子には奢る。奢って欲しいだけの女には絶対に奢らない。別にこれは金の問題じゃない。くだらないけど、自分なりの美学の問題なのだ。
その後、僕はS子と踊った。ちなみに大阪のDJ(MC)はよくしゃべる。最初はかなり違和感があるが、慣れると一体感を出してくれるという意味では悪くはないと思った。15分ほどして曲がEDMからHipHopに変わる。
 
「あー、私こういうのわからん、あんまノれへん」
 
「俺もよう知らんわ笑」
 
「どーする?オズくん、飲む?」
 
そんなS子に僕は正直に言った。
 
「俺東京から来て、このクラブ初めてなんやけど、どこがイチャつけるスポットなん?」
 
「え?向こうの方やで」
 
「ほなそこ行こか」
 
「いいよ」
 
決まり手だった。
その五分後、僕らはクラブを出た。
 
関西で初めての即。
実を言うと、ちょうど一年前のゴールデンウイークにも、縁あって関西でナンパをした。が、その時は結局何も結果がでなかった。
久しぶりに再会した関西勢からは、「あの童貞のようだったオズさんが…」などと言われる始末だった。まぁそれで良くも悪くも変わった自分を再認識することになった。
 
そんなことを知る由もなく、京都から来たS子はチカラを使い果たしてウトウトしながら、時折寝ぼけては僕にキスをせがみ、僕はそれを、貴腐ワインのような甘い食後酒のごとく嗜んだ。首筋から揮発するほのかな香水の香りと共に…。
 
 
 
 
 
 
ラインの着信音がして目が覚めた。気がつくと僕も少しだけ眠っていたらしく、時間は5時半だった。部屋の主、arataくんからメッセージが来ていた。
 
「部屋空く?」
 
arataくんは別室で寝ていたが、事情によって自室に戻りたいようだった。
僕は思い出したようにS子をゆり起こした。
 
「ごめん、実はこの部屋、友達も一緒で、悪いけど今から帰ってきちゃうんだ」
 
「え?そーやったんや!ごめんな!始発も出てるから、ほな帰るな」
 
するすると優しい京都弁で話しながら、S子は支度を始めた。
黒い下着をつけるS子。朝のぼんやりした光の中で、その肩から背中、くびれたウエストに小さなお尻を見て、心底、女は美しいと思った。触れずにはいられない得体のしれない吸引力。男はどこまで行っても女のその「何か」に誘われ、惑わされ、どれだけカッコつけてみても、まるでイカロスの翼の、太陽とロウの関係のように溶かされるしかないのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は後ろからS子の首筋を甘く噛んだ。重い生クリームのようなセクシュアルな質感が、歯の先からでも感じ取れるようだった。
出会ってすぐさまセックスをした。それでも僕は出会った相手と生まれた、少しでも繋がった何かを噛み締めたいと思ったのかもしれない。身勝手で寂しがりな、人のサガである。
 
支度のできたS子と部屋を出た。ホテルの廊下を進むと別の部屋からは、男たちの笑う声と、女の子のはしゃぐ声がした。
 
そう、勿論その部屋は関東ナンパ師チームの一室に違いなかった。改めてここが今回の鬼畜な主戦場だと思い知らされる。一体あの部屋では何が起きているのだろうか?
そしてエレベーターホールにつくとその部屋からは関東チームのバロンさんがちょうど出てきた。
 
「あっ」
 
思わず笑い合う僕とバロンさん。
S子が不思議そうに訊ねる。
 
「え、お友達?」
 
「…の一人だよ」
 
僕は言う。
そしてバロンさんは意味ありげな笑みを浮かべるとどこかへ消えていった。
 
S子を下まで見送った。
 
「オズくん、ありがとう。東京行くことあったらまた連絡するね!」
 
「うん、ありがとう、じゃ…気をつけて」
 
そうしてS子は帰っていった。
S子と出会って四時間の出来事だった。
 
僕は前夜祭で確かな1即を残した。
 
そしてS子の顔はもう覚えていない。
 
身体が、脳みそが燃えているのを感じた。
 
関東VS関西・24時間ナンパ対決、本当の始まりは六時間後に迫っていた。
 
 
 
 
つづく。
 
 
Photo by Seven-Studio クリエイティブ・コモンズ表示 - 継承

目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパを教えた日。〜その5〜

狭いカラオケルームに、男が二人、女が一人。
デニムのショートパンツから出たツルツルのナマ足。
このツルツルの生足からショートパンツをするっと剥ぎとって、パッと股を開いていこうとするのが
今回の我々のナンパの目的である。

 

 


オレンジ色のL字のソファに、染み付いたタバコの臭い。
カラオケルームはまるで人間性を鑑みないサナトリウムだ。

そんなことを考えている僕の横では、友達が女にピタリと張り付いて、他愛もない話をしている。

あ〜繰り返される、他愛もない話。

他愛もない話。

そして他愛もない話。

その様子をぼーっと眺めていると、まるでハムスターがくるくると車輪の中で走り回っているようだった。
その先に何もないのに延々と走り回る様子。

クラブで散々ナンパして、挙句渋谷でこの時間までストリートナンパ!
八時だぞ!!!
僕は、心の中でそんな雄叫びを上げると、猛烈な空虚感を感じた。
そして彼にそっと耳打ちした。

「ここは俺が仕上げるから、お前はトイレに行くとでも言って出て行け」

出て行け、の後に「NOW!!」とブチギレたデンゼル・ワシントンばりに叫びたい気持ちを抑えて、友達を追い出した。
あのままハムスターを繰り返しても、俺達はとっとこハム太郎で終わってしまう。
ここまで来たんだ、俺達は、いや、せめて俺だけでもとっととハメ太郎に…。

友達は出て行った。
話は一度ここへ戻る。

 

 


目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパを教えた日。〜その1〜

 

 


僕がカラオケルームへ戻ると、まるで何もなかったような友達と女の子がいた。
しかし友達の目を見て確信した。
ヤッたんだなと。

そりゃ僕のスーパーファインプレーのおかげだ。君は一切何もしていない、与えられた食事に、だれでもわかるやり方でフォークを突き刺したに過ぎない。料理など何もしていないんだよ。僕は、きちんとナンパを教えた帰結としてセックスをさせることができたという、一昔前のナンパ講習の価値観に、自ら頬を染めあげた

 


そして少しの沈黙の後、女が言った。

「〇〇くん(友達の名前)のおっきすぎて痛かった!」

「あ、うん」

僕自身、なにが「あ、うん」なのかはわからなかったが、「あ、うん」としか出てこなかった。

「そりゃ経験人数二人だから痛いこともあるわな」

無理に勝ち誇ったような態度で彼女に言葉を返した。この女は俺達が支配したんだと、そう言いたかったのかもしれない。

 

そして女は言った。

 

 


「それなんだけど、私ホントは200人なの」

 

 


僕と友達は固まった。

「…あ、うん」

僕自身、なにが「あ、うん」なのかはわからなかったが、「あ、うん」としか出てこなかった。
一転してカラオケルームには、即られた男二人が、引きつった笑みを浮かべているのだった。

…トゥーハンドレッド
マジで?
余裕で僕の生涯経験人数を凌駕していた。

 

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僕はピエロだった。狂言回し。仏の前の孫悟空

 

そんな気持ちを悟られまいと、恥を忍んでこの女王蜂に聞いた。
プライドを打ち砕かれた僕自身の、何か一つでも優位に立たせるものを探して。


「てか、ほんとに21歳?」

「そうだよ」

「経験おおくね?」(震え声)

「気がついたらそうなってた」

「風俗だったとか?」

「ピンサロはちょっとやってたけど、他のはないよ」

「それで200人?」

「そう」

「そんなセックス好きなの?」(自分をほっぽり出して、彼女に侮蔑を込めてみた)

「別に〜。断わんないだけ。久しぶりに清純演じてみて楽しかった〜!よし、カラオケしよ〜!何歌う〜、あ、私から歌っていい?どれにしよっかな〜。あれ?二人共歌わないの。なんか楽しくなってきた! こんな楽しいの久しぶり!てか〇〇くんイケメンだよね〜超タイプ!でもアソコデカすぎ。久しぶりに
痛かったよ〜。」

 

彼女はそう言うと、三本目のリアルマイクを片手に、アニソンを歌い出した。

 

 


そう、僕は友達と共に

「目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパの奥深さをを教えてもらった日」

を迎えたのだった。

 






終。