目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパを教えた日。〜その5〜
狭いカラオケルームに、男が二人、女が一人。
デニムのショートパンツから出たツルツルのナマ足。
このツルツルの生足からショートパンツをするっと剥ぎとって、パッと股を開いていこうとするのが
今回の我々のナンパの目的である。
オレンジ色のL字のソファに、染み付いたタバコの臭い。
カラオケルームはまるで人間性を鑑みないサナトリウムだ。
そんなことを考えている僕の横では、友達が女にピタリと張り付いて、他愛もない話をしている。
あ〜繰り返される、他愛もない話。
他愛もない話。
そして他愛もない話。
その様子をぼーっと眺めていると、まるでハムスターがくるくると車輪の中で走り回っているようだった。
その先に何もないのに延々と走り回る様子。
クラブで散々ナンパして、挙句渋谷でこの時間までストリートナンパ!
八時だぞ!!!
僕は、心の中でそんな雄叫びを上げると、猛烈な空虚感を感じた。
そして彼にそっと耳打ちした。
「ここは俺が仕上げるから、お前はトイレに行くとでも言って出て行け」
出て行け、の後に「NOW!!」とブチギレたデンゼル・ワシントンばりに叫びたい気持ちを抑えて、友達を追い出した。
あのままハムスターを繰り返しても、俺達はとっとこハム太郎で終わってしまう。
ここまで来たんだ、俺達は、いや、せめて俺だけでもとっととハメ太郎に…。
友達は出て行った。
話は一度ここへ戻る。
目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパを教えた日。〜その1〜
僕がカラオケルームへ戻ると、まるで何もなかったような友達と女の子がいた。
しかし友達の目を見て確信した。
ヤッたんだなと。
そりゃ僕のスーパーファインプレーのおかげだ。君は一切何もしていない、与えられた食事に、だれでもわかるやり方でフォークを突き刺したに過ぎない。料理など何もしていないんだよ。僕は、きちんとナンパを教えた帰結としてセックスをさせることができたという、一昔前のナンパ講習の価値観に、自ら頬を染めあげた
。
そして少しの沈黙の後、女が言った。
「〇〇くん(友達の名前)のおっきすぎて痛かった!」
「あ、うん」
僕自身、なにが「あ、うん」なのかはわからなかったが、「あ、うん」としか出てこなかった。
「そりゃ経験人数二人だから痛いこともあるわな」
無理に勝ち誇ったような態度で彼女に言葉を返した。この女は俺達が支配したんだと、そう言いたかったのかもしれない。
そして女は言った。
「それなんだけど、私ホントは200人なの」
僕と友達は固まった。
「…あ、うん」
僕自身、なにが「あ、うん」なのかはわからなかったが、「あ、うん」としか出てこなかった。
一転してカラオケルームには、即られた男二人が、引きつった笑みを浮かべているのだった。
…トゥーハンドレッド?
マジで?
余裕で僕の生涯経験人数を凌駕していた。
そんな気持ちを悟られまいと、恥を忍んでこの女王蜂に聞いた。
プライドを打ち砕かれた僕自身の、何か一つでも優位に立たせるものを探して。
「てか、ほんとに21歳?」
「そうだよ」
「経験おおくね?」(震え声)
「気がついたらそうなってた」
「風俗だったとか?」
「ピンサロはちょっとやってたけど、他のはないよ」
「それで200人?」
「そう」
「そんなセックス好きなの?」(自分をほっぽり出して、彼女に侮蔑を込めてみた)
「別に〜。断わんないだけ。久しぶりに清純演じてみて楽しかった〜!よし、カラオケしよ〜!何歌う〜、あ、私から歌っていい?どれにしよっかな〜。あれ?二人共歌わないの。なんか楽しくなってきた! こんな楽しいの久しぶり!てか〇〇くんイケメンだよね〜超タイプ!でもアソコデカすぎ。久しぶりに
痛かったよ〜。」
彼女はそう言うと、三本目のリアルマイクを片手に、アニソンを歌い出した。
そう、僕は友達と共に
「目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパの奥深さをを教えてもらった日」
を迎えたのだった。
終。