プロメテウスとロマネスコと最速のクラブナンパ即 〜朝焼けの2月篇・その2〜

大都会にしんしんと降り積もる雪を眺めながら、僕は自分自身に起った出来事を噛み締めていた。
あれは一体なんだったのか。あの子とのセ_クスは本当にあったことだったのかと…。今でも全ては夢の中の出来事のように思える…。

 

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2014年2月のとある週末、東京には大雪が降った。
昼から降り始めた雪で、夜半には辺り一面真っ白になり、電車のダイヤは乱れ、テレビでは困惑する人々が面白半分で映し出されていた。辺り一面真っ白だった。まさに東京そのものがまるで見た事もないワンダーランドに生まれ変わっていた。他人事のように家でそれを眺めていた僕は、ある人に呼び出された。

それはあの、ごまきさんだった。

節分にストリートナンパで即をした僕は、なぜかその大雪の中、あの欲望の街に立っていた。
このとき既にクラブからのお持ち帰りでは10連敗以上を喫し、ナンパをしてる人としてはおそらく底辺にいた。なまじ踊る事が好きなせいで、ナンパがうまくいかなくてもいいや、そんな考えがあった事は確かで、いや、それでも結果を出す人は山ほどいる事を考えれば、ただのショボ腕なのだった。さすがに1月の惨憺たる結果で自己嫌悪に陥り、なぜお持ち帰りできるのかは全くわからないような状態だった。答えは確かにあるけど式がわからない、迷える子羊ならぬアラサー羊だった。涙も涸れていた。
そんな僕には無情にも更なる誕生日と言うものが訪れ、一つ年を取った。本当なら武井咲のような美女が、手作りケーキとシャンパンで祝ってくれているはずだったのに、実際は僕の隣には、にやにやと不敵な笑みを浮かべ、したり顔をしたごまきさんがいた。ホワイトバースデーwith暗黒卿、というある意味で贅沢な取り合わせになったのだった。

正直、ごまきさんはいろんな意味で恐ろしい存在だった。全くもって何を考えているかわからない、それなのに的確に人の心を揺さぶり、混乱へと陥れるのであった。もはやナンパ師界隈で最も「暗黒卿」と言う名にふさわしい人だった。そんな人が僕の誕生日を祝ってくれると言うのだ。無論ただで済まされるはずがなかったが、ただ家でテレビを見ている日常に比べれば、僕にとってはカオスな日常にこそ生きる意味があるように思えたのだ。

待ち合わせをした彼は、まるでマッターホルンのような出で立ちで、寒さか怯えかで肩をふるわせるアラサー羊の僕に、開口一番こう言った。

「オズさんは欲望を出し切ってないっすわ、カッコ悪いっすわ」

正直、何を言ってるのかがわからなかった。わからなすぎて「へ、へへぇ」などとうっかり八兵衛みたいなリアクションをしてしまった。この人は水戸黄門か?黄門様なのか?欲望を出し切ってない?いやいや、何言ってんすか、欲望全開で生きてるつもりですけど?ナンパしてますし!黄門様はさらに印籠を見せるがごとくこう付け加えた。

バカルディいきましょう」

無知な僕はバカルディと聞いて、内P時代の改名前のさまぁ〜ずを浮かべたが、そんな僕を差し置いて、黄門様一行は大雪の中、アイリッシュパブのチェーン店、HUBに入った。バカルディ、一体なんなんだ!?名前からして僕の大好きな和菓子ではない事は確かだ。そしてあの笑ってるのか睨んでるのかわからない暗黒の魔法使いの事だから、おそらくただでは済まされないことも確かだった。僕はディズニーのヒロインみたいにバカではない。明らかに怪しいのに何も感じない程不感症ではない。ホラー映画である。

さすがに大雪ともあって週末の零時を回ったHUBにしては大して混んでいない。今日はオズさん、誕生日ってことでおごりますよ、と軽快にカウンターに向かうごまきさんは、店員に言った。

バカルディ151、45ml、ショットで。ライムつけて」

ライムをつけて、の一言がせめてもの優しさだったと知ったのは、この1分後だった。
ショットグラスで出てきたのは琥珀色をした飲み物だった。

「あはは〜なんすかこれ〜」

と僕は自分で自分の墓を掘る囚人の、最後の愛想笑いを浮かべながらそれを受け取った。ショットグラスに入ってるくらいだからテキーラかその類いの酒だろうとは思った。ちなみに酒に弱い僕は普段ショットで酒などは飲まない。ぶっちゃけ馬鹿がクラブでノリで飲むもんだと思っている。しかしこのバカルディが、この日の僕のナンパの運命を、大きく変えるターニングポイントだったとはこの時は知る由もなかった。

それはまさに「バースデイ」の始まりだった。

「さ、いっちゃってください」

まるで首相になりたての野党党首を騙す官僚のような、うすら笑いのごまきさん。ええいままよ!

「じゃ、いただきます!」

そういって僕は運命の液体を喉に流し込んだ。
そして間もなくして、ぐおぉぉぉと喉が燃えるように熱くなり、体は突然の謎の液体に拒否反応を起こして震え出した。すぐさまライムを口に放り込む。
足りない!
店員に駆け寄って「ライムもう一つ!」と叫んだ!

僕は店員から奪いとるようにライムを口に押し込み、ごまきさんに聞いた。

「なんすかこれ!!」

「奢るからもう一杯いこう」

ぼくは聞いたはずだ、なんですかこれ?って。質問をスルーしてバカルディがもう一杯僕のもとに現れた。質問を質問で返すという某関西凄腕ナンパ師さんの、マルセイユルーレットならぬ、質問をアルコールで返すという名付けてバーバリアン(野蛮人)ルーレットを繰り出した。
誕生日の僕がしかし、奢られた酒を飲まないのは失礼だ、そう思って僕は震える体を押さえつけ、続けざまにもう一杯のバカルディを流し込んだ。毒と知っていて毒を飲んだ。熱すぎる。もはや喉元に砂漠の灼熱の太陽が輝いているようだった。ホントに体が震えている。こんな反応をする僕の体を、僕は知らなかった。死んでしまうんじゃないかと思った。

「だからなんなんですかこれ!!」

熱さと弾丸のような衝撃で混乱する僕に、ごまきさんは親切に体言止めでこういった。

「75度の酒」

…知っているだろうか。世界で有名なスピリッツのジン、テキーラ、ウォツカ、ラムなどは基本的に40度前後の酒である。しかもショットは通常30mlを飲むものだ。それを約1.5倍のアルコール濃度で、1.5倍の量を二杯飲んだことになる。テキーラショットで言えば約6杯分なのだった。それを約一分間で僕は飲んでしまった。普段は生中二杯を一時間かけて飲んでいい感じになる僕が。よい子は絶対にマネしたらアカンやつやん…。

「じゃ、クラブいこうか」

冷静なごまきさんの後に続き、体が火球のようになった僕は、ものの五分程でHUBを後にした。ああ、そう言えば雪が降ってたな…辺りは雪で前が見えない程だった。僕は思っていた。欲望を出してない事とバカルディに何の関係があんねん…てかライムがうまかったな…HUBにこんな酒あるn…75度の…sじゃふkgjbりおが

「よっしゃーー!!!!!」

僕はバカルディを飲んで二分でバースト(爆発)した。

ごまきさんはその日、プロメテウスと化した。プロメテウスは天界の火を人間に与えた存在だ。人類は与えられた火によって大いに繁栄したが、同時にそれを用いて戦争を始めてしまった。しかし悪いのはプロメテウスでも火でもなく、それを扱う人間だと言う事なのだが。
アルコールとナンパはプロメテウスの火なのかもしれない…。

そんなこんなで僕はもうふっらふらだった。雪で足下がおぼつかない上に、なんだか笑顔が止まらない。零度以下の気温が僕にはジャングルのような気温に感じられ、歩いている人全員がアミーゴ状態。ビートゥギャーザ!ビートゥギャーザ!今夜は!と全盛時代の小室とか安室とかが舞い降り、今日はみんな俺のリサイタルにあつまってくれてありがとう!変なおじさんだよ!沖縄のみんな〜、二階席のみんな〜、アリーナのみんな〜!!!よっっっっしゃーいくぜー!!!!と、もはや脳内の全てがカオスと化した。で、クラブにインした。

俺が来たゼーーーーーー!!!!!!!(いつものテンション上がった僕ですね)

入り口で早々女の子集団とすれ違う。みんなきゃわいい〜!女の子にはまるで家族のような気軽さで絡む。もはやこれは絡むと言うより、絡み付く感じだったと思う。

…思う。

そう、記憶が曖昧なパーティーの始まりだった。超絶勢いナンパ野郎のノッキンオンへブンズドア!!

そんな僕に更にテキーラをショットで煽るごまきさん。そして気が付くとダンスフロアに突入していた。それはもう踊り倒した。僕はもう勢いしかなかった。そしてなんでい、こんちくしょう、地面が曲がってんじゃねーか!と怒っていた。曲がってんじゃねぇこのやろう!踊りにくいじゃねーか!もちろん曲がっていたのは僕の三半規管である。

30分後、曲がった地面で踊り疲れた僕は一度フロアを離れた。ごまきさんは見当たらなかった。というか視界がぐわんぐわんして、ラリパッパだ。ラリパッパオズはふふふんふ〜んとミッキーマウスみたいに軽快に口笛を吹いてバーへ向かった。するとそこに女の子2人組が男2人に絡まれているのを見つけた。女の子らは入り口で出会った子たちだった。そして女の子らは明らかに男に対して離れたがっている態度だった。腐っても鯛ならぬ酔っていてもオズな僕は、妙な所を冷静にそれを見逃さなかった。僕は「ダサメン強引ナンパ防止委員会」の委員長としてそれを少しでも助けるつもりで、片方のショートヘアの子に話しかけた。

「さっき会ったよね!」

「あ〜ほんとだ!」

スペイン人みたいに僕は陽気に話しかけた。さも、僕たちローマ帝国時代からお友達なんだけど、このダサメンなんなの?シマムラで買い物しても、それよりオシャレになれるわハフ〜ン、みたいな態度で男2人組を制した。ショッカー対仮面ライダーみたいに秒殺だった。
そして僕はあらためてぐるぐると回る視界の中でその子を見た。細くて背が小さくてショートヘア。可愛かった。もう片方の子は別の男と話し出していた。そんな僕らは、ショッカーの逃げた姿をあざ笑いつつ、北の国からは次の展開どうなるのか、もういくとこまでいったから南の国からにしたほうがいいじゃないかとか、そんな事を1分程話したろうか、チューしようとした。
もちろん引かれた。バカルディという炎でまさしくバカになった僕は聞く。(僕のテンションの高さを!と?マークの数で表しています)

「いやなん!!!!!!!」

「いやいやいや…」

「友達おるから?????」

「…」

これ友達おるからなだけやん、と察した僕は畳み掛けた。

「じゃちょっと二人きりにならへん??????」

「え〜友達いるし」

普通に考えたら当たり前である。そもそも和みを全く入れていない。話し始めて2分くらいだ。北の国からの話しただけでお前だれやねんである。もちろんオズの中の人は倉本聰ではない。

「一瞬だけ!!!! 一瞬だけ!!!!!!!」

倉本聰のシナリオなら絶対に出てこないヘタクソな誘い文句。発情した中学生のような台詞だった。そう言って彼女の手を引きクラブの入り口に向かって歩き出した。案外いやがらない彼女。会って4分経過したくらいか。もうカオスは始まっていた。運命はロマネスコのように。

「え、どこいくの? 鍵とか友達だし、それにどこにも行かないよ〜」

「一瞬や、大丈夫や!!!エントランスは俺がまただす!!!そやからまた入ればええ!!!!!」

「え、え?? そと?? 外なの!?」

戸惑う彼女を尻目に、半袖Tシャツの僕は、吹雪の街にワンピース一枚の彼女とともにクラブから飛び出した。刺すような冷たさと雪が僕らのさらけ出した皮膚を襲った。クラブの中での余熱がどんどん冷めていく。でも僕は心地よかった。そして彼女はというと展開早すぎてもはや意味が分からんと言った様子だった。
ちなみに彼女はシラフだった事が後に判明している。

「なになにどこいくの?????」

戸惑いながらも、彼女は楽しそうだった。さむいさむいと体を寄せ合いながら、僕らは雪道を走った。ホームアローンマコーレー・カルキンのような陽気さで。
だが、実のところアテなどなかった。アテなどないけれど彼女に寒い思いをさせてはいけないと(連れ出したお前が何を言う)、僕は近くのとある雑居ビルに入った。二人きりになるスポット…もう化粧室しか浮かばなかった。僕は彼女を引き連れていった。
これじゃまるでおバカな映画のようだと思いつつ、あれよあれよと言う間に僕と彼女は求め合った…。



それから約十五分後だろうか、夏のような格好をした僕らは、同じクラブへ再入場した。彼女は友達をすぐに見つけじゃあまたね、とフロアに帰っていった。

…ここまで、彼女と会ってから30分間の出来事だった。

もう、意味などわからなかった。なぜあんな急展開になったのかも、なぜ彼女が受け入れたのかも、なぜ僕は外にいたのかも。しかしこの日、街は真っ白になり、普段はワンダーランドを求めにクラブに行く世界が逆転していた。クラブより街がワンダーランドそのものだった。

結局再入場したクラブで最後まで踊り明かした僕に、彼女からメールが届いていた。また会いたいと。そしてクラブの外で暗黒卿こと、黄門様こと、プロメテウスこと、ごまきさんにそれを報告すると、特に顔色を変える事もなく僕に言い放った。



「今からストりますよ」



「え?」





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ルールや、やり方や、こうじゃなくてはならない、と言ったもの、それは実は全て自分がリミッターになっているんだと気が付いた。クラブからお持ち帰りするには、声をかけて、和んで、連れ出しを打診して、あわよくばホテルや漫喫に直行して、クッションを置くなら居酒屋に行って、なんて行程が当然だと思っていた。
でも、実際はそんなルールも基本も何もない。現実とそれを動かす主としての自分がいて、本当は誰でもどこでもミュージカルスターのように歌を歌い出せるし、告白できるし、全裸になる事もできる。僕はバカルディによって男としてカッコつける事も、ナンパのフォルムも、まっすぐ立つ事も失ったが、それがまさに欲望をむき出しにした、ありのままの僕だったとしたら…。夢だけど、夢じゃなかった…。

1月、毎日のようにナンパに出て、クラブに行き倒して1ゲットだった僕は、2月、7ゲットになった。