関東VS関西・24時間ナンパ対決② 〜跳ねなくなった日常へ〜

 

人間は線路を走る列車ではない。

列車のようにレールから外れると途端に脱線して事故になることもなければ、ブレーキが効かずに壁にぶつかって粉々になることもない。
 
我々は、壊れてしまえば元に戻らない最先端機械でもなければ、知能の低い動物でもない。
 
我々は人間なのだ。家族のために命を投げ出し、あるいは恋人のために身代わりとなり、災害があれば誰かを助ける。
春の萌ゆる緑に生命の息吹を感じ、夏には暑さに負けぬ情熱を燃やす。
秋には枯れゆく草木に哀愁を覚え、やがて冬の厳しい寒さの中でも、人の温かさに愛を感じるのだ。そういう生き物なのだ。
人は簡単には壊れない。
人は人を、生命を愛するものだ。ただそれが偽善と言われようと、理想と言われようとも。
 
 
果たしてあなたは、どんな人間だろうか?
 
 
 

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五月三日  午前11時  大阪 某ホテル
 
 
ホテルの一室に来た僕の目の前には、上半身はブラ1枚で、下はスカートにストッキングを履いた半裸の女性と、それを取り囲むように、ほぼ全裸のナンパ師数名がいた。
ビジネスホテルの狭い部屋にところ狭しと男がおり、その中心に半裸の女ひとり。
 
異様な風景。
 
これがナンパ師の日常…それで片付けるには僕の経験値が追いついていなかった。
部屋には人の体臭が立ち込めていた。温水プールみたいなもわっとする空気に、夏の更衣室のような臭い。
かといって別に淫靡な空気でもないのが不思議だった。いや、むしろ怖いほどに 和やかな空気。
でもこの空間には微妙な一本の線で均衡を保っていて、恐らくその線は、僕らの背骨の辺りから手繰り寄せられ、そして彼女の膣の中にすすすと伝い、更に奥底の方へつながっていたのだと思う。
 
理性と衝動の間で。
 
その子は周囲の下ネタにも、あるいは直接的な接触にもあくまで笑止と受け、あっけらかんとしているように見えた。周囲の男らもぎゃははと笑ってみたり、あるいはうっすらと気を使うように笑ってみたり、あるいは全裸になってみたり。
ふとテーブルを見ると、そこにはただ、空いた酒の瓶がさめざめと並んでいた。
兵どもが夢の跡…。
 
 
 
ナンパをして実際に思ったことは、3Pや4Pなんて日常で起こるし、居酒屋や、街の暗がりや、トイレでセックスなんて当たり前だし、状況さえ揃えば人前でフェラだろうと乱交だろうと、会って1分でセックスだろうと、何でも起こりうる世界なのだ、ということだった。
 
結局、モラルと理性と世間体でがんじがらめになった堅苦しい人間は、ひとつそれをはずしてやるだけで、転げ落ちる可能性が、誰にでもある、それだけのことなのだ。
すなわち人は柔軟であり、機械と違って壁にぶつかっても壊れて直らないものではないし、レールから外れても事故が起きるわけでもない。
ただただ柔らかい、そして気色の悪い生き物なのだ。
この気色の悪い生き物の性質は、今も変わらぬ野生の魂から湧き出てくる生命のパワーでもあり、人類が恐らく最後まで戦い続けなければいけない暗黒の性質だと思う。
 
僕はこれまでナンパをして、一体どこまで来たのだろうか?
ここは正解か?
あるいは不正解か?
あるいはまだまだ遠い道のりなのだろうか?
 
そうして、硬い頭がとろとろの鉄のようになったところで、改めてもう一度部屋を見渡した。
相変わらず、部屋の中にはところ狭しと男たち、そしてその中心に半裸の女ひとりだった。
 
何かこの空気に耐え切れなくなった僕は、昼食を摂るといい部屋を離れた。
言い知れぬ感情がどんどんどんどん湧きだしそうだった。
 
キチ◯イ。
 
ただのキチ◯イども。
 
僕もキチ◯イであって、人がみなキチ◯イでない証拠は?
 
遭難し絶望的な空腹で、唯一生き残る術は、目の前で先に死んでしまいそうな愛する人を食うことだとすれば、それを食えるか?
愛する人がカラダを差し出したらそれを食って生き残ることが愛か?
幼い子どもが家で待っているのに、子どもを残して一緒に死ぬことが愛か?
人肉を食うことが愛、そんなことがあるのだろうか?
 
他人は殺せるか?
殺せない。
でも言葉もわからない、肌の色も違う、TV上でしか見えないどこかの誰かなら殺せるか?
恋人や親兄弟が殺される代わりになら、知らない民族の人間を殺せるのだろうか?
 
 
 
 
ホテルを出ると、さわやかな陽気に、燦々と大阪の熱い太陽が照りつけていた。
時計を見ると対戦の始まる時間を過ぎていた。
 
 
ああ、僕はナンパ対決をしに来たんだった。
 
 
すべてを忘れて女とヤりまくって勝ちにいく。
 
 
僕はそれだけを誓った。
 
 
 
 
関東VS関西・24時間ナンパ対決、ついにゲームは始まる。
 
 
 
 
 
つづく。
 
 
 Photo by knock