目の前で価値観も道徳も串刺しにして、初めてナンパを教えた日。〜その2〜


「ぶっちゃけ愛ってなんなの?」

「マジで惚れるとか意味がわからない」

「恋人とかいらなくない?」

「自分一人で生きていけるっしょ」

「ハメるマ◯◯を見つけりゃいいんでしょ」

友達は続け様に、フワフワした調子で僕に言ってきた。

「てか、一回ナンパ教えてよ」

僕は直感的に思った。
こいつにナンパを教えてしまうと、単なるナンパマシンにしてしまうんじゃないかと。言い方を変えると、ダークサイドに落ちるんじゃないかと…。その1の出来事が起こる10時間前の、23時の出来事だ。

 

 

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レンブラントの自画像

 



彼は僕のナンパ遍歴を最近知った。僕が話すナンパで起きた出来事やいい思い出、苦々しい思い出、六本木で一人泣いたこと、友だちができたとこ、色々なことを赤裸々に話した。
そして男子なら当然の帰結として彼は僕に、ナンパに興味を示した。ナンパがしてみたいという彼はなまじ何もしなくてもモテるし、多才で話も面白い。身長こそそこまでないが、他は揃いも揃っている。そして何より現状でセフレもいるし、彼女らは恐らく結構可愛い。だが、しかし神が二物を与えぬとはこのことで、彼はというとこんな人間だったのだ。


愛とか人を好きになる感情がわからない。


本当に彼は理解不能だといった。彼女がいたこともあるけど、好きになんかなった事はないと。相手が恋愛そのものに没頭すればするほど冷めていく、と。
そしてそんな彼は、戸惑う僕に言った。

「ナンパで本当に好きになれる人に出会いたい。それは本当だ。出会いたいんだ、何もかも忘れて、苦しくなって、没頭できる相手に。…出会えるかな?」

僕のこれまでの経験値から言える、真っ直ぐな答えはこうだった。

「出会える…かもしれないが、出会えない、あるいはハードルだけがドンドン上がっていって結果として出会ったことにならない、永久に捜索だけが続くかもしれない、そんな状況になるかもしれないぞ。俺自身、今や付き合うということへのハードルが上がり、そしてそれにもかかわらず自分のナンパスキルでは落とせないレベルの女性を求めてしまってる」

「そうか…」

そして彼は少し沈黙した後、更に質問をした。

「ナンパで新しい世界は拓けるかな?」

僕は彼のミゾオチに鋭くナイフの先を突きつけるような語気で答えた。

「俺は、お前が大きな夢を持っているのを知っている。だからこそ言うが、自分のやりたいことや将来の目標に裂くべき時間を、ナンパにハマって消耗するようになると、俺はお前をカスだと思うだろう。それにお前のレベルだとナンパしてセ_クスできるようになるのはぶっちゃけ簡単だと思う。だからこそいうが、自分のレベルで相手できる女を抱き続けても意味は無いだろうな。セ_クスがしたいだけならそれでもいいが、それなら今で十分だろ」

彼はいきなり突きつけられたナイフを、小さな笑いでごまかした。

「あはは、そうだけど…」

「お前がナンパスキルによって本当に惚れる女を掴みとり、更にはそういう女に、外見や内面や社会的地位から真に釣り合うことが出来るようになれば、きっと少しは違う世界が現れるんじゃないかと思う。まぁ、俺はできていないけど…」

「でも社会的地位がなくても、そこそこのスペックでも美女は抱けるだろ?」

「時折の運でそういうこともあるだろうな。でも運で美女を抱くことは、宝くじを買って当たるようなもんで、お前が何か進化する手助けになるか?お前が買わなくて後ろのおっさんが買っても当たったかもしれない宝くじに何か意味があるか?どうせそうなったらまた宝くじを買いに行って、当たったの当たらないのと言って死ぬまで並んで、気がついたら人生の生き方やライフスタイルそのものの向上よりも、宝くじに人生の喜びを見い出す様な人生になるぞ。お前の送りたい人生はなんだよ?」(※宝くじをバカにしているわけではないですが、僕は買いません。価値観は人それぞれです)

「これってナンパの話だよな?」

「そうだ」

「ナンパってこういうことなのか?」

「俺はただ、思った事を言ってるだけだよ。時間を掛けないナンパという行為は、社会的地位は実際関係ないし、顔面もある程度以上であればいいだろう。そして何よりそれを実現するための圧倒的なナンパスキルを持っていれば美女を抱くとこはできる。正直そこまで出来る人は稀だが。俺もできないし」

僕は自分で発した言葉が、彼を脅すどころか、僕自身に振りかかる血みどろの剣のように感じた。俺はなにを偉そうに言ってるんだという気持ち。だが、一年以上ナンパをしてきた結果にもある程度裏打ちがある。だがそれも含めて、自身の言葉が過激派左翼のように自ら総括されられているような、フクザツな気分だった。
そして彼は言った。

「じゃなんで俺が没頭できるレベルの相手と外見、内面、社会的地位なんかで吊り合う必要があるんだ?」

「お前は結果として長期的関係を保ちたいんだろ?付き合ったり、結婚したり、一生愛し続けたい相手が欲しいんだろ?」

「ああ」

そう、それは僕自身も求めているものだ。僕は彼を自分の価値観に誘導していくように言った。

「じゃお前がずっと一緒にいたい人に求めるものはなんだよ?最後に立ち現れてくるのは何だと思うんだよ?」

「ん〜、なんだろう、優しさ?」

「優しいブサイクならゴロゴロいるぜ」

「且つ美貌?」

「たしかにあるが、年をとったら意味ないぜ」

「…」

「というか、さっきから美女美女といってるけど、美女とイイ女は違うだろ?」

「たしかに」

「美人でスタイルも最高だが、話をしても何もなく、他人への礼儀もなく、品もなく、プライドや見栄ばかりあって、自分がいいと思った相手に取り繕う能力には長けているが、そういう自分に客観性もない。そういう女はさすがに極端だがな」

「うん、極端だ」

少し僕らは笑い合い、更に僕は続けた。

「それだったら美人でスタイルもよく、話は深く面白いし、品もある。幅広い視野で自分を客観的に捉えながら、他人とも柔軟に接し、且つ自分で主体性を持って行動し、外見だけに頼ることなく内面や社会的地位を磨こうとする人。さぁどっちと一緒にいたい?これも極端か?」

「うん、極端だ。だが間違いなく後者だ」

「じゃ、お前もそんな男になるべきじゃないか?」

「…間違いない」

彼は真剣な眼差しで静かに頷いた。俺も自己暗示が完成しているなと自嘲した。
時刻は23時だった。
一息ついた。すっかり硬くなってしまった空気を和らげようと僕は言った。

「ナンパを、沢山の女とセックスする技術と思うか、それ以上にナンパを通して人として何を目指すか考えてくれたらいいと思う」

「わかった」

「…とまぁこれは、俺が折角お前に教えるならと思って言いたいことを言ったまでのことだ。一つの意見として聞いてくれればいいから」

「…わかってるよ」

「それに今日はクラブだ。そんなに気負う事もない。というかクラブを楽しめない奴と一緒にクラブには行きたくないからな。今日は楽しんでくれ」

「おっけ〜!」

「で、ナンパについて勉強してきたか?」

「してない」

「は?」

「今日は初めてナンパをする、だから敢えて現状の自分だけでどこまで出来るか確かめたいんだ」

僕はいくつか言いたいことを飲み込んで、わかったと了承した。

「ああ・・・緊張してきた」

僕は小刻みに身震いする友達と笑いながら家を出た。

「お前、そわそわが身体から出てるぞw」

「そりゃ緊張するぜ、あああああ!!!」

僕らはようやく電車に乗ったところだった。






その3へ続く。