オズ、はじまりの戦い 〜ナンパで泣いた男の話〜 その3

本当は29日の夜に帰郷しようと思っていた。結婚が決まった地元の親友とそのお相手と飲む約束をしていた。
親友にはナンパをしている理由は伝えてあったし、彼なりに理解してくれていたと思う。そんな親友に僕は電話でこういった。

「ナンパでどうしても結果を出して帰りたい。本当に悪いけど一日待ってくれ」

普通の人からすれば途方も無い狂気だ。その狂気に親友はいつもの軽い調子でこう言った。

「オレも仕事があったから、丁度良かった」

笑いながらそう言ってくれた彼に、僕は絶対に結果を出す、そう誓った。



______________________




あの日以来、仕事して風呂入って寝てる時間以外はすべてナンパをしていた。ご飯はナンパ中にさくっと食べていた。28日のイベントが29日の朝に終わり、家に帰った。シャワーを浴びて眠りにつき、17時に目を覚まし、僕は支度を始めた。歯を磨き、着替え、髪の毛をセットする。今日の目標はストで一即、その後六本木のクラブへ行き一即、そう決めた。なんとしてもやってやる。これで今年の最後を飾る、そう意気込んでいた。根拠などない、ただの見栄とプライドと自分への自信、それだけだった。ツイッターにも出撃宣言をした。そして凄腕のA氏(イニシャルではありません)にお会いできることになっていた。学べる人からたくさん学びたかった。
本当のことを言えばここ数日、全く目ぼしい結果が出ていないことで、自分自信の力の無さが、うっすらと濃霧の中に立ち現れてきている気がしたが、自信をなくしてはナンパなどうまくいかない。そう思って僕は街に出た。


12月29日(日)18時30分 渋谷

…僕がナンパで泣くまであと、12時間。

街は年末の気配で、いつも通りか、それ以上に賑わっていた。飲み会が至るところであるようで、テンションの高い集団や、酔っぱらいや顔を赤くした女性が既に散見された。いい感じかもしれない。例えば女性を連れだして酔ってもらい、いい気分になってセ_クスに持ち込むことをしなくても、既に酔っていてくれれば話が早い。序盤はゆっくりとターゲットを選びつつ声掛けをしていった。A氏とは九時頃に会うことに。そこに、別の凄腕ナンパ師のB氏からご飯のお誘いが入った。八時に。僕のような全然ゲットもできていない奴に会って頂ける嬉しさと焦りを感じながら、B氏が来るまでの1時間半、全力でやることにした。
ナンパは運もある、即系に当たれば1時間半で一即も不可能ではない。
とにかく、やるんだ。自分に言い聞かせた。
…ところが始まってみると和みまでも行けない。和みって何でしたっけ?というくらい和めない。時間だけが迫る。キリキリとした焦燥感が溢れ、目には余裕などなかったと思う。7時になり、7時半になる。バンゲすらできない。そもそも一人でいるターゲットが少ない。それもそうだ、年末に何もするとこがなくフラフラと歩く一番のフウテンは、何を隠そう僕自身にほかならなかった。年末の空気と、年末まで街でナンパしている自分とのギャップ。あの人こんな日までナンパしてる、みたいな目線にさらされる。ホントはそんなことどうでもいい筈なのに。焦りが焦りを生む。センター街、スト高が通るも身動きできない。何人もターゲットを見送り、そんな自分に更に焦りが。
ようやく声を掛けた美女には当然のごとくガンシカされる。ほんの1メートル先で話しかける僕の存在を消し去るが如き強い拒否。存在しないというようなヌルい扱いではなく、存在を、価値を、ぶち壊しにかかるガンシカ。僕はまるで檻の中から餌を欲しがる動物実験のチンパンジーのようだった。騒ごうがわめこうが聞こえないし相手にされない。

…そして、地蔵した。

もう待とう。そんな言い訳をして、僕は声を失った。街を見ている事しかできなかった。
センター街のファミリーマートの前には、釘を刺された藁人形が突っ立ていたことだろう。

B氏と合流しご飯を食べた。僕は正直見栄を張った。しかも蟻ん子ほどのちっぽけな見栄。さも、今日はイマイチうまくいってないんですよ〜レベルの動揺を演じた。そしてナンパや恋愛について話した。その後一緒にナンパをさせてもらうも、B氏は落ち着いていて分析が鋭い。七色に感情をセルフコントロールするのを傍目に、僕は再び力をもらった。
そしてさらにA氏とも合流した。A氏からは圧倒的パワーを感じた。いや、正直言うとこの時A氏のパワーを感じきれていなかった。ドラゴンボールミスターサタンが悟空を前にして気を感じられない、そんなことだったように思う。(たぶん僕はミスターサタンにさえボコボコにされる)

A氏とB氏、それぞれぜんぜん違う個性のお二人のナンパを見て、僕は色めき立った。本当は色めき立ったって日本語はおかしいけど、一年に一冊くらいしか小説を読まない僕にはとりあえずこの言葉しか当てはまらない感情だった。その圧倒的地球外エネルギー=ギャラクティックエネルギーを頂き、僕はどうにかめちゃくちゃタイプなギャルに声を掛けた。髪は金に近いストレート、ウェリントンメガネを掛けて、細くて背の高い女性だった。普段なら雰囲気からして物怖じして決して行かない相手だった。そして話してみるととてもしっかりしている人だった。内面もいいなと素直に思った。そして僕は粘った。ナンパした人になんかアドレス教えないと言われても、全身全霊で粘り、道玄坂を登り切ってようやくビタドメし、そこから10分ものネゴシエーションをした。ようやくバンゲをした。地球外エネルギーをもらった地球で最初のアースバンゲだった。(ちょっと自分でも何言ってるかわかりません)
その時の僕は確かに違った。両氏の地球外ギャラクティックエネルギーと、マナと呼ばれる地球由来の超能力的な尋常ならざるエネルギーの集合体が全身を駆け巡り、血管を拡張させ、赤血球は普段の3倍、肺活量は5倍、視力は2.0、脚力はチーター並み、テレパシーはイルカ並み、頭脳はゴリラ並みになっていた。(尚、アースバンゲの相手とは連絡はとれるが今だアポれていない)

その後、両氏とは別れ、ツイッターで合流した沢北さんと一路六本木へと向かった。結局ストで即はならなかった。しかし両氏との出会いとアースバンゲが僕の背中を押してくれたのは確かだった。センター街で一度失った魂が再び僕の心に戻ってきた。いやそれ以上の何かが宿っていた。ギャラクティックモードだった。


______________________

 

f:id:OZZ:20140129195019j:plain

沢北さんと共に六本木のとある箱に入った。クラブがほぼ初めてだという沢北さんに、ややドヤ顔でクラブのことを説明した。二人でコンビをするも、僕は基本コンビをあまり経験がなく、且つ僕らの雰囲気の系統が違ったのか中々うまくいかない。途中はぐれてソロで行くことに。ええい、ままよ、と一人で酒を煽った。僕は酒が弱い、故に酒ですぐにテンションが上がる非常に省エネな男だった。さぁテンションだけはぶち上げた。後は獲物を探すだけ。僕はついに最終形態のギャラクティックバーストモードと化した。
ダンスフロアに行った。すると壁際に立っている、ピチっとしたニットっぽいカットソーに、それ嬬恋村でとれたキャベツちゃうの?みたいな巨乳を持て余した女性、スト値6(10段階です)を発見した。完全に仕上がっていた僕は第一声でこういった。

「ちょ、オ◯パイ気になりすぎて踊れへんねんけど」

すると女性は笑いながら

「ちょっ、何いってんの、ばかww」

見事完全にオープンした。オープナー?なにそれおいしいの?それから流れは一瞬だった。速攻嬬恋キャベツを触り、DKを決め、3分後にはこう言った。

「ホテル行くぞ」

するとキャベ子は笑いながら

「え…いいけど…。でも来たばっかだしもう少しだけ踊りたい」

ホテルが確定した。
僕はついに勝利を確信した。しかしながら紳士な僕は、自身もクラブに来たら踊りたい人なので、踊りたいという人を無理に行かせては申し訳ない、というていで、キャベ子に「じゃ、もう少し踊ってなよ、少ししたらまた来るから」と言ってその場を去った。
僕はこの時凄腕ナンパ師からもらったエネルギーとアルコールによる、ギャラクティックバーストモードで、前日までの惨憺たる結果を忘却し、めっちゃくちゃに調子に乗っていた。キャベ子を一旦放置した理由は、紛れも無く僕の心に「このクラブには更にスト値が上の相手がいる、それを狙えるはずだ。それが無理ならキャベ子にしよう」などという奢りがあったからに他ならない。後にこれが大きな過ちを生んでしまうとは思ってもみなかった。

クラブ内を更なるターゲットを探して僕は歩きまわった。何組か和むがソロなのでイマイチ連れだしなど打診できなかったが、気持ち的には全然平気だった。
小一時間ほどたって沢北さんと再会した。そこに丁度キャベ子がいた。どうやら友達と三人で来ていたらしく、三人仲良く話しをしていた。そろそろ頃合いなんじゃないの?収穫時期なんじゃないの?ぐへへ、と思い、僕は沢北さんと一緒にキャベ子グループににこやかに話しかけた。

「おう!」

するときゃべ子はまったくの素の表情で

「ああ…」

え!?
ああ…ってなんすか!?
明らかに様子がおかしかった。表情は固く、こっちを見ない。まるで1時間前のキャベ子と同じ人とは思えぬ素振りで僕をあしらった。
「…やっちまった」そう思ったがもう遅かった。
完全に収穫のタイミングを逃していたのだった。ダンスフロアで暗がりで酒も入って音楽ガンガンのなかで愛しあったのに…お野菜には旬がある、そんな基本的なことを僕は忘れていたのだった。シュンとなった。

シュンとした僕は、硬くなった春キャベツがどうやったら旬に戻ってくれるのだろうかとか、明るいとこで見たらスト値5.3やなとか、いろいろ思案した。でももう、旬は戻ってきそうになかった。さすがに終わったと思った。

そうしていると、ふとキャベ子の左隣から視線を感じた。キャベ子の横を見るとキャベ子の友人で、桃くらいの胸をした女性が立っていた(以下モモ子、スト値5)。モモ子が僕の方をガン見していた。
なんかよくわからんが、非常に熱い視線だった。

…え、ちょ、こ、これは、ひょっとして、ひょっとするやつですか?!



時間は午前3時を回るところだった。



僕がナンパで泣くまであと、4時間。





その4へ続く。