オズ、はじまりの戦い 〜ナンパで泣いた男の話〜 その2

ナンパ師にとって、いや、ほとんどの人にとって街は、敵であり味方じゃないかと思う。人は喜びや楽しみや、あるいは未体験の「何か」を求め街に行き、やがては街にうんざりし、そこを去る。
だが本当は街は何も持たざるものから何かを奪おうとする。それはお金だったり、時間だったり、人間関係だったり、理性だったり。東京という街、フォーカスするならば渋谷、新宿、六本木、池袋などの街はそこ自体が圧倒的な強さの街であり、人からこれらの属性を奪うことにおいて世界最高水準だろう。
コントロール出来ない強大な街で、そこで見るものに翻弄されずに生きること。

我々は安易に街に魂を預けてはならない。街そのものには何もないのだ。自ら思考して行動を起こさない限り。自らの審美眼とエゴと価値観をもって、街と生きろ。



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©YangChen(TW)


12月25日(水)19時、渋谷、クリスマス。
さぁ、これから声掛けしていこうという矢先、ツイッターで知り合った3人のナンパ師、ショウくんとミナライ執事さん、だいわりゅうさんがと合流した。みなさんに心配してもらい嬉しかった。そして一緒にナンパすることに。徐々に声をかけていく僕ら。だいわさんとコンビで並行トークしたり、ペアを変えてミナライさんやショウ君ともやっていく。時にはソロで、コンビで、よもやカルテットで。サンタコスをした美女が闊歩する特別な日。どうしても即を決めたかったし、出来ると思っていた。が、そんなハッピー全開な日に、和みはするけど連れ出すことすらできない。クリスマスやハロウィンなどの特別な日は街は半分クラブのようになる。だからテンションだけで行く。サンタコスの女の子たちと和んでも軽くあしらわれた。本当はこういう日にも忘れない繊細さが必要なのだとはこの時は考えてもいなかった。サンタコスで着飾った女性達を見て、お前らはなんのためにそんな服を着てるんだ、女同士で見せ合って幸せなのか?結局見られたいんだろ?内面に自信がないから、日常に不満があるから見せかけのコスチュームに身を包んでさも私は充実しています、などと触れ回っているんだろ?
…僕はどこかでそんな風に見下していた気もする。
時間だけが過ぎ、ナンパでセ_クスすることが目的なのか声をかけることが目的なのかわからなくなってきた。結局22時半までやり、約20声掛けのバンゲもなし完全ボウズ。そもそも番ゲする気もなかった。即だけしか考えていなかった。そして僕はみなさんに別れを告げ、一路六本木のクラブへと向かった。

クラブの中には街と同じように、それ以上にサンタがたくさんいた。もはや誰が誰かわからなかった。そしてもう誰が誰でもどうでも良かった。クラブの中は、赤が混じったパナウェーブ研究所

「おとん、電磁波が!電磁波が攻めてくんで!!どこに逃げたらええねや!?電磁波どころやない、女の人がみんなサンタ着てるやなんて、電波もええとこや!」

「オズ、サンタ着てクラブ行く事に意味なんて見出したらあかん、ただ楽しいから行くんや。お前もサンタ見れて嬉しいやろ」

「そやかて、他に楽しいコトいっぱいあるやん」

「オズ、お前何でナンパしとるんや?なんでそんなこといいながらクリスマスにクラブ来とるんや?欲望に素直になれへんお前がいちばん醜いぞ。何カッコつけとんねん」

「意味わからん、おとんのアホ!!」

「アホはお前や。アホになりきれへんお前がアホや。中途半端な俳優の中途半端な芝居見させられてんのと一緒や。見てるこっちが恥ずかしなるわ」

「ほな俺に足らんのはなんなんや…」

…クラブが締まり朝五時。(少し前のことなのでどなたと合流したか定かで無いので、敢えて合流して頂いた方を省略させて頂いてます、すみません)
ここからは残党狩りと言ってクラブ終わりの女の子や、飲んだ帰りの子などをナンパする時間だ。まだ終わっちゃいない。テンションとやる気だけは高く、ガンガン声をかけていくが、全く連れ出せない。というか自己分析すると、六本木からの連れだしルートをはっきりと描いておらず、ナンパしたこちらが先行きを考えられていないという失態を犯していたことに後で気がついた。この日、朝の八時までストをしたがトータル6バンゲで家路についた。

「まぁ本気出しても、こんな日もあるよな」

と疲れに心地よさを感じて朝日が眩しい中、帰った。この日から僕は、徐々に心地よさなど感じている場合ではなくなっていくのだった。



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12月26日(木)19時、新宿、雨。ソロで久しぶりにストをする。寒くない。いや、正確には寒いけれどどうでも良かった。
開始早々冷たい雨が降りだす。新宿は幸い地下道がある。いそいで地下道に降りると赤血球のような人の流れがあった。そこから若くて鮮やかな赤血球を抽出していく。
しかしぼくはここで地蔵した。
煌々と蛍光灯に照らされた地下街にウィルスのように潜り込む僕。身を隠しながらもギロギロと人を観察するが足が動かなかった。20時になった。もう十五分も同じ所にいた。失うものがなにもないはずだったのに、僕のクソちっぽけなプライドかなにかが、栄転する地下道で声をかけることを許さなかったのだと思う。地下道のトイレの前にはオタク風の20代前半の男性らが5人ほど溜まってゲームの話をしていた。揃いも揃って服がダサい。カバンがダサい。髪型がダサい。挙動が気持ち悪かった。こいつら女の子に縁なんてないだろうな、と彼らを見下した僕自身も、平日の雨の新宿の地下道で通り過ぎる誰かに声を掛けないといけないくらい、他人から見ると見下された存在だと思ってしまった。ナンパをする僕がナンパを否定している、なのにナンパをしたい、セ_クスがしたい。こんがらがった糸くずのような僕が、地下道の隅っこに溜まって、地下鉄からの風でひょろひょろと揺られ、右往左往しているのだった。気が付くと糸くずは無益な思考を集めて綿ボコリのように肥大化していた。オタクの彼らが欲望のままにゲームをすることの方が、幾分か清々しいことのようにも思われた。
気が付くと21時だった。夜から用事のためそこで終わった。結果0バンゲの坊主。表立っては、「雨も降ったし、二時間じゃしょうがないかもな」僕はまだそんなことを考えていた。オープナーは全く思いつかないくせにできない言い訳だけは、箱から取り出すティッシュのようにホイホイ思いつくのだった。ティッシュはトイレに流せません。



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12月27日(金)時間が全く取れなかった。前日、街角ホコリ地蔵していたくせに、ナンパしたい気持ちで心は疼いていた。結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果脚気結果結果結果結果!!!僕がナンパで泣くまであと、2日と9時間。



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12月28日(土)20時、新宿、極寒。新宿でのとある深夜イベントに行くため、それまでソロでストることに。この日はめちゃくちゃ寒かった。カイロを買ったものの貼るカイロを買ってしまい、それを声掛けをした女の子に配るナンパをしていた。カイロは9個あった。深夜イベントの始まる12時ころまでできる。三時間。凄腕のスト師なら一即できる時間がある。頑張れば俺にできないわけではないと思っていた。スタートでやや地蔵したが、徐々にナンパ欲が温まり声掛けに躊躇がなくなっていく。ガンシカも怖くなくなって、並行トークも続く。ギャグ半分のカイロもなんとなく無くなっていく。
こんな僕は結果にこだわるくせに即系は嫌だった。真面目そう、普通そうな女の子ばかりに声を掛けた。

21時04分、ビックロ前の道を歩いていると、女子大生風の泣いている女の子とすれ違う。僕は一度スルーしてしまったが、どうして彼女が泣いているのか気になったし、もしかして泣いている所を慰めて連れ出せばセ_クスも出来るかもしれないと思った。僕の心はどんな女なら自分に股を開くか、という考えで行動規範ができていた。いよいよ周りの目はどうでも良くなった。そして後ろからそっと声を掛けた。

「泣いてるけど大丈夫?」

「…大丈夫です」

彼女が発した大丈夫ですは、ナンパになんか応じませんから放っておいて下さい、あんたなんていなくても大丈夫です、の略だった。しかしそんなことは当然である。ここから彼女をカイロ間違えて買った話で笑わせる。彼女は泣きながらも笑顔に変わっていった。そして寒いから本当にカイロあげる、と言って彼女に手渡した。彼女は「ありがとう」と言って受け取った。

「どこ向かってるの?」

「もう帰ろうと思って」

「なんか、良かったら話聞くけど」

「いや、そんな大した話じゃないです」

「泣いてるのに大した話じゃないとかないでしょ」

泣き止んだ彼女は僕の方を見て話すようになっていた。これは連れ出せるかもしれない、と期待が膨らんできたその瞬間だった。背中に強烈な衝撃が走り、僕は前へ吹き飛んだ!!

「俺の女だよ!!!!」

背中の痛みに死ぬほど驚きつつ声の方を見ると、背の低めの男子大学生風の男が僕の方を見て怒りの形相をしていた。根っから真面目な僕は、思わず小声で「スミマセン」と謝りその場を後にした。本当に一瞬のことで頭が混乱していた。背中の痛みが消えなかった。そう、僕は彼女の相手の男に背中を思いっきり殴られたのだ。僕は下心がありつつも普通に慰めて話を聞いていただけなのに。(カスですねw)そしておそらく彼女を泣かせて寒空の下一人で帰らせていたのは、あの男に違いなかった。僕は怒りに震えてしまった。西野カナ顔負けに。オヤジにもぶたれたことない(オカンにはある)俺を、理由も聞かずに殴るとは、そして女を泣かせてしまうとは、あの男恐らくクズでカスで心の小さいゴミみたいな奴だと思った。女を泣かせるなんて…

女を泣かせる…ああ、僕のことね。あいつは僕ね。はいはい。神様からのフィードバック来ましたか。神フィードの狙い通り、僕もクズでカスで心の小さいゴミみたいな奴だと思った。いや、ゴミだった。僕はここ二、三日、糸くずになったりホコリになったりゴミになったりと忙しい。ナンパ界の芥川龍之介とは僕のことだと思ったが、それは芥川賞を取ってから言うことにします。文章の内容は平成耽美派私小説みたいなメンヘラ感満載でお送りしていますが。
うずく背中の痛みも、あの人の感じた痛みや憎しみの代償にしては軽いか、そう思うと笑えてきた。殴ってくれてありがとうと思えるほどに。・・・今度会ったらぶっ殺すけどな。

そして僕はナンパを再開した。しかし中々和みもできない。途中貼るカイロをあげたら貼らないカイロをくれたOLさんがいた。未開封のカイロからは人のぬくもりがした。そして時間はもう23時半になっていた。
場所を一路、即系の多いと言われている歌舞伎町方面へと変えた。もう、清純派とかそんなもんにこだわっている場合でないことに気がついた。結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果結果!!
ドンキ前、独りのアイ・アム・ア・ソクケイ、ハウアーユー?みたいな、派手なのに根暗そうな女性を発見した。ヒョウ柄のアウターにばさばさの切り干し大根みたいな髪の毛、スタイルは細めで、顔は意外にも綺麗だったが、真っ黒な穴を覗きこんでいるような、色彩のない目をしていた。
すぐさま声を掛けた。反応があった。どうやら風の民で、これから仕事のようだった。にしては暇そうだった。反応は薄いが和める。彼女からは自分の意志が全然感じられない。これはいけるかもしれない。時間は23時45分。時間がない!

弾丸即なら出来るはずだ。どうする?そうやって誘い出す?理由は?展開は?トークは?ノリは?考えた…目の前で拙い話で時間だけを引き伸ばす。ダメだ、全く思いつかない。六本木連れだしルートのない事態と同じだった。旧日本軍のインパール作戦状態に陥っていた。クソ指揮官の僕には歌舞伎町での弾丸即スキルが全くなかった。ないとえば誰もはじめからないのだが、いきなりカラオケか漫喫連れだしすることに、僕自身で無理を感じていては絶対に相手を誘えない。自分のワールドが完成していないのに、女の子を自分のワールドに引きこむことなどできなかった。プログラムのできていないゲームにマリオだけ突っ込んでも、バグとエラーでフリーズするだけのように。
時計を見た。0時だった。もうこれ以上ナンパには時間が割けない。タイムアップだった。最高の獲物を目の前にして、不甲斐なく放流した。彼女は歌舞伎町の奥に消えていった。

「今日もやっちまった、僕は何をしていたんだろう」

イベントに向かった。即できなかった。悔しかったが事実だった。おかしい、こんなはずじゃ、という思いが焦りが、僕の心のなかに広がりっていた。土曜日のゴールデンタイムにこのザマは…。





僕がナンパで泣くまであと、1日と7時間。





その3へ続く。