新宿初即物語 ~Sex in Wonderland~ その3
彼女と僕は未だ緊張の色を隠さず、打ち解けているとは言い難い絶妙な雰囲気だった。
僕が客としてその状況を傍目で見ていたとしたら、あのカップル、なんかうまくいってねーぞ感を感じ取れる程度の空気だ。しかし飲み始めてから40分。時は来た。
まず手を握ろう。そこに抵抗がなければもう店を出るんだ!
…早速思考だけが回転しガチガチになってきた。からの
「手綺麗だね、指長いやん」
はいベタ!ベッタベタ!そして無心で相手の手を取った。脈絡がなさすぎる展開にどんなアホでも「コイツ触りに来たな」と思ったことだろう。
…あとは正直なんかよく覚えていないが、その手を握ったまま彼女と話した。彼女は嫌がる素振りを微塵も見せなかった。だが好意的な素振りもない。もはや僕は何も読み取れなかった。だが、もう一度いいたい。
拒否ではない。繰り返すが拒否では…ない。拒否ではない回答は全て…「イエス!」
そして外してはならない質問があった。
「カラオケとか好き?」
「好き!よく一人でも行っちゃう!!」
ここで好反応きたぁぁぁぁ!!!
まさかこの真面目控え目不思議なアリスが、カラオケ好きとは!!やはりナンパ神は僕を見捨ててはいなかったのだった。
「お、じゃカラオケ行こうよ!まだ帰るには時間あるじゃん!」
「うん、いいよ!」
まさに神展開。ほぼシラフの僕と、なんならシラフよりシラフな彼女。
HUBを出て靖国通りのカラオケ屋に向かった。彼女は行きつけのカラオケ屋のカー ドを持っている。お会計が20%オフだ。なんて素晴らしいアリス!お会計が20%オフなんて!んなことはどうでもいい!
遂にカラオケまで漕ぎ着けた。時間 は10時過ぎ。11時半には電車に乗らないと、ということで、一時間だけということになった。勝負は1時間だ!
大手のちょいとだけ値段のする綺麗系のカラオケ屋、その7階。ドアには縦にガラスがはまり外が少し見える。反対側の部屋のも同じドアなので向こうの部屋の様子が何となく伺えた。向こうの部屋は無人のようだった。
内装は少しゴージャスな感じだった。メルヘンチックでシックな模様の壁紙、黒いソファ、そして暗めの照明。
窓のない3〜4畳ほどの小部屋に1時間前まで赤の他人だった二人がいる。都会は不思議だ。そしてここが「狂ったお茶会」の舞台だった。
(挿絵〜不思議の国のアリスより〜)
彼女を奥に座らせ、その横15センチに座る。きれいな部屋だね、なんて意味のない会話をしつつドリンクを待つ。かくいう僕は基本的にカラオケが苦手だ。まして赤の他人と来ることなんてない。しかし、今やそんな甘えは許されない。もう一度今日の目標を思い出す。
即
以上。
もはやここでやるべきことは、アジカンを歌うことでも、タンバリンを叩くことでも、長い間奏を早送りして、し過ぎて変な所から歌い始めるみたいなことでもない。
あとは彼女に更に接近し、ギラつくだけだった。
でも一応聞いた。
「なんか歌う?」
「うん!」
「(あ、歌うんだ。ま、そうだよなカラオケだもんな)曲入れていいよ」
「わかった」
そして僕には、全く未だ何の確証もなかった。これは即の流れなのか?アリスは意識してるのか?むしろ俺待ちか?全力でカラオケなのか?経験値が無いために判断がつかない。
前奏が始まる。
そうして彼女は高音の美声を響かせつつ何かを歌い出した。その時は色々なことを考えすぎていて彼女が何を歌ったのか覚えていない。
ドリンクが来た。
もう邪魔するものは何もない。
彼女が歌い終えた。
よし。ここからだ!!
…僕はアジカンを歌い出した。
考えすぎて落ち気味だったテンションが、歌うと晴れやかになった。意外に良い効果だった。そして静かにソラニンを歌い終えた。我ながらナンパ師としてもカラオケ師としても雰囲気無視の選曲だったように思う。
そしてそっとマイクを置いた。
沈黙になった。カラオケのテレビがうるさい宣伝をループで垂れ流し始める。
彼女の手を握った。僕は彼女を見つめた。彼女も見つめてきた。目には少し不安げな曇りを感じた。
でも、その顔には拒否の色はない。三度目のあれだった。全てイエス的なあれ。
そして僕は彼女に、更に顔を近づけた。
彼女は
そっと目をつむった。
フェイズシフト!!!!!!!!!!
その4につづく。