新宿初即物語 ~Sex in Wonderland~ その2
「なにかおさがしですか?」
アリスはスッと僕の顔を見た。きれいな人だった。僕より少し年上か、恐らく30歳過ぎくらいだった。しかし透明感のある人だった。
(挿絵〜不思議の国のアリスより〜)
「え、いや…」
彼女は少しドキッとした様子で静かに答えた。強い拒否感はない。でも受け入れるという素振りでもない。初対面、当たり前だ。
「何かお探しなら分かる範囲で案内しますよ」僕も笑顔は忘れない。
「美容院探してて…」
「え?こんな時間に空いてるとこなんてあるの?あ、歌舞伎町ならあるか。ってかおねえさんお水?」
「ちがいます!いつも会社が終わるの遅くて」
「だよね、そんな清楚な雰囲気でお水だったら引くわw」
「清楚じゃないですよ」
「今日も仕事だったんだ、お疲れ様(ここで清楚かどうかに対する会話を掘り下げておくべきだった気もするが、結果オーライとしよう)。休日仕事大変だね。明日も?」
「明日はお休みです」
静かに話しをする、控えめな人だった。アリスみたいな可愛い格好をしておいてそのギャップに違和感があった。清楚系?と見せかけたビッチ?
会話で、何気なく明日の予定がないことを確認する。ここまでの反応は拒絶0、食い付き2、戸惑い4、読めない感じ4、という雰囲気だった。
更に僕は自分の仕事を話しつつ、彼女の事を聞き出す。彼女が事務系の仕事で、男だらけの職場、家は電車で新宿から30分程など、なんとなく必要な情報をかき集めながら、他愛もない会話をした。少しずつ歩きながらの4分ほどだった。全く食いつきなど読めなかったが、疲れ果てた歩き地蔵は飲み打診以外にもはや会話と息が続きそうもなかったので、早いと思ったが、ここで打診をすることにした。
自分は友達と飲もうと思っていたがドタキャンされたので、どうしようかと思っていた。良かったら明日も休みなんだし少しだけ付き合ってよ。
そんなことを言った。相手はここでも、う~ん、という反応。
拒否ではない。…繰り返すが拒否ではない。拒否ではない回答は全て…「イエス!」
押せば行けると確信し時間制限を掛けた。30分だけ!いや、5分だけでも!!
そんなことを言うと彼女ははっきりと、いいよ、とも、行く、ともいわずに頷いた。
じゃいこうか。そうして近くのウルサイリッシュパブの、HUBへ連れ出した。
僕はHUBへ行く200メートルの間に頭をフル回転させていた。要はゴール地点への逆算だった。目標は即。しかもカラオケか漫喫。
相手はあまり意志のないタイプか。しかし年齢的な偏差で少し固いかもしれないし、清楚ど真ん中でエロに関して引く可能性は十分にある。その辺りに慎重になりつつ、しかし1時間以内でカラオケに移動すること目標とした。オラオラが好きそうではない。なら誠実にだ。嘘です、オラオラができないだけです。
会話の流れは、双方の基本情報による自己開示→恋愛トーク→ボディタッチを含めたIOIの確認→カラオケ移動。このシンプルな構成だった。
いざ、HUBに入った。
ギリギリ立ちの客がいない程度に混んでいる。テレビにはサッカー中継、やはりうるさい程度のガヤ。いつものHUB。
さぁ、ここからが真の戦いのはじまりだ。
着くやいなや一つ幸運が訪れた。案内された席が角のL字の席だった。対面に比べて圧倒的アドバンテージ!薄らハゲのナンパ神が、ブリーフ一丁の笑顔で「ふぁいと♡」と手を振っているような気がした。
そしてそれを帳消しにするかのような彼女の注文したドリンク
「ウーロン茶!!」
で僕の戦いは、不思議の国に迷い込んだように混乱を極めた。気がつくと僕らはうさぎの穴におちているのだ!
まずは乾杯。明らかに僕と彼女はテンションが違う。彼女は今だに静かだ。僕自身はテンションが低いほうが常態だが、当時は、あまり低く合わせるとギラついた会話がしづらくなる傾向にあり、敢えて相手に合わせないでテンションで空気を引っ張るようにした。
逆算した計画通り会話を進めることにした。
まずは情報開示。俺は決して怪しくない、ただの飲み足りない青年です、をアピールしつつ相手の出身地や仕事内容を聞き、やがて恋愛の話に。
どうやら彼女は三ヶ月前に彼氏と別れたばかりのようだった。しかも職場では出会いなどない。アリスのような可愛い格好も、おじさまたちの乾いたおかず(いわゆる乾き物ですね)になるだけらしかった。僕は、
「え、じゃあ寂しくないの?」
などと中学レベルのバレバレの誘導尋問を展開。それに対し彼女は
「う、うん、寂しいよ…」
という中学英語の教科書のチャプター3みたいな、ベタな回答をした。同時に僕の脳内には、ウルフルズの「それが答えだ!」が0.5秒ほど流れ、角に座って膝と膝がぶつかることを厭わなくなってきた空気感からIOIの確認フェーズに入ることにした。
彼女が欲しているものはなんとなく聞き出せたからだ。
後は僕にその価値が有るかを確認するのだ。
そして彼女の最高級絹ごし豆腐みたいな美しい脚が目に留まる。
欲しい…、そう思った。
その3に続く。