新宿初即物語 ~Sex in Wonderland~ その1

きちんとストリートナンパを始めてみようと、6月にくろねこさんの講習を受けてから約一ヶ月が経とうとしていた。

講習で地蔵を克服したと思っていた僕は、実は出撃ごとに声掛けの回数の減少に歯止めがかからず、日に日に焦燥と自己嫌悪が膨らみ続けていた。そんなはずはない、俺はできるはずなのに、という心の声とは裏腹に女性に声をかける恐怖は手足の硬直となっていた。

一ヶ月という節目を前にして未だ"即"をしていない。いや、むしろ過去には遊び半分のナンパで即をしていただけに、過去の自分が重圧だった。出来たはずのことができなくなっている。

そこに現れた7月の三連休。土日月の休み。最悪にも金土月は仕事のため、日曜日の夜、出撃することにした。
目指すはたった一つである。

"即"

しかもホテルや自宅でではなく、カラオケや漫喫で決めるストリート系の即だ。未体験ゾーン、故にそれ以外はいらなかった。


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(挿絵〜不思議の国のアリスより〜)



午後7時半、新宿に降り立った。
イヤホンからは爆音でクラブミュージックがかかっていた。体調はベストコンディション、晴れ、気温も高くない、明日も世間は休み。街には女性があふれていた。
言い訳できるものがなにもなく、これで即に至らなかったら僕は死んだほうがいいとまで考えた。でも「ナンパで即れなかったので死にます。」こんな遺言だけは書きたくなかった。できれば同じ死ぬのなら即の途中で死ぬ、即死が良かった。

ターゲットはキレイめの女性。できれば細身。おしゃれな人がいい。
あからさまな即系や、ポチャ、スト値5以下には興味が無い。即するならそれは即系がいいかもしれない。ポジションも歌舞伎町手前のドンキ前がいいのかもしれ ない。でも自分がセ_クスしたいと思わない相手と交わることなどしたくなかった。それが自分のモチベーションであり、ナンパをする意味だったからだ。

今日の計画はこうだった。九時前までに連れ出し。相手にもよるが居酒屋などに行って、カラオケ打診。そしてそこで即。終電前までに解散し終了。オールするつもりは毛頭ない。

新宿東口から歩いて旧三越の裏手あたりへ。以前他のナンパ師さんと合流したあたりだった。
いざ、イヤホンを外し、街に同化を試みる。空気を吸い込み、ゆっくり吐く。幸せそうな人で溢れる街に、即死欲求を背負った僕が挑んだ!!


一人目、OL風の女性。「こんばんわ!」テンション高めに話しかける。日曜なのに仕事終わりですか?
暫く話すも帰りますで、断念。

街には一人でいる女性が少ないようだった。カップルかグループか二人組。選定に時間がかかった。
いや、今日はイケるはずだ。自分に言い聞かせた。僕はターゲットを割と選ぶ。3秒ルールなどあまりない。それが地蔵の原因でもあるが、たくさん行って死屍累々を自慢する意味もない。勿論確率的に弱くなることは承知だった。ただ、タイプの女性は見逃さない。・・・はずだった。

二人目、キレイめのお姉さん。シカト。

三人目、JD。そういうのいいんで、と去っていく。

ここで時間は八時過ぎ。十分に一人という脅威の遅いペース。このままでは更に地蔵する、そうして焦りだした。計画では九時前に連れ出しだ。
だが、実際、自分が明らかに地蔵気味なのは否定できなかった。くろねこさんの講習時のテンションを思いだせ、とか、声掛けしてガンシカなんて当たり前だ、と思うに連れ、地蔵が地蔵を呼び地蔵大連合ができるのを感じた。どうせなら笠地蔵であって欲しかった。

気を取り直すべく、場所を変えてみようと歩き出した。
すれ違う早足のきれいな女性たち。ムリだ急いでる、きっとガンシカだ、ちょっと遠いな、そんなに可愛くないかも、など声を掛けない理由は牡丹雪のように降っては消えていく。見逃しまくった。それはもう綺麗に。
そして歩き地蔵は靖国通りまで出た。居酒屋のキャッチ、キャバクラの呼び込みがたくさんいる。戦いにくい…という言い訳作りにはぴったりだった。そして時間は八時半。
まだ声掛け三人?即を狙ってるのに?焦りだけが僕の早足の歩調となりかわる。

結局ドンキの前。
暫く交差点を眺めているとだらだらと歩くJD風の女性。横断歩道を渡り西武新宿方面に。あの子なら行ける。そう思って慎重に後を追う。ごった返す人々で中々入るポジションができない。50メートルほど追ってようやく声掛け。

四人目、JD。
「こんばんわ!これから帰るとこ?」

…ガンシカ。

がっくりと肩を落とした。もはやどんな女性が心開いてくれるというのか、そんなに自分の外見に価値がないのか、などの思考が駆け巡り負のループが始まる。今な らわかるが、この負のループが始まるとほとんど成功しなくなる。全身硬くなって笑顔も余裕も自然な振る舞いも、暗澹たる奈落へ真っ逆さまだった。
地蔵、真っ逆さま。

だがそれでも九時前。まだだ、まだだ。地蔵するにしても終電まで地蔵できるじゃないか、何も出来なかったとしても街から学べることもある。(地蔵地蔵書きすぎて地蔵ブログみたいだ。)

そんなことを考えながら、アルタの裏辺りに移動した。あまり人通りがない。が、白い服を着たJD風の女性が一人でふらふらと歩いている。何か飲食店を探しているよう。コレは!とおもった。
ん?同時に水色のワンピースを着た別の女性が、少し離れた道路の逆サイドで、同じように何か見上げながらうろうろしている。
どっちだ、そして、どちらかだ。どちらかに行けばその様子が見られてバレる。ナンパしてるところが見られれば次がない。

JDはとあるごはん屋の前で立ち止まり、メニューを眺め始めた。申し分ない。話しかけるきっかけも、その後の展開で一緒に御飯に誘いやすい。しかもボブで可愛かった。一人でご飯?新宿で?9時前に?絶対いける!
意を決した。ここで行かないと。ここで行かないと、二度といけなくなる。地蔵というかもはやモアイだった僕が動き出した。
そのJDにさりげなく近づく。20m、15m、10m…鼓動が高鳴るを深呼吸で紛らわせ、15分ぶりの声掛けだった。そしていざ、行こうと思った矢先…

その子はすっと店に入ってしまった。

やってしまったと思った。好機を逃したと。責める相手は己だけだった。思考が行動の速度を鈍らせ好機を逃す。まるでギャンブルに負けた人生のようだった。

そうして溜息をつくと、そうだった、水色のワンピースの女性が目に入った。背は160くらいだろうか。不思議の国のアリスが着ているようなひらっとした水色のワンピースを着ていた。ノースリーブでウエストまではタイトに、そこから花びらのように広がる美しいラインのスカート部分。外周は白い刺繍の縁取り。そして黒いロングヘア。ほっそりした白い脚。
もう何も考えなかった。同じことを繰り返してはならない。話すきっかけ?話してから考えろ!
街に出て小一時間。迫り来る焦りとミジンコほどの希望を胸に。

そうしてシロウサギならぬシロウトナンパ師の僕は、新宿という大都会で何かを求めて彷徨うアリスにひっそりと近づき、少ーしだけ追い越して、前から声を掛けた。

「なにかおさがしですか?」

アリスはスッと僕の顔を見た。きれいな人だった。






その2につづく。