出会い系の罪と罰と、罠。その3

「出会い系の罪と罰と、罠。その2」からの続きです。

 

 

時計は午前三時に差し掛かるところだった。

セ_クス後のLH、301号室は、光も音もない苛烈な水圧の深海だった。
でも深海の海底にお風呂の栓みたいなものがあったとすれば、この直後に、その栓がスポン!と抜かれたのだろう。

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Photo by jonathanschertzer

彼女と僕がぎこちない笑顔であったかいうどんをすするのは、これから10時間後の話だ。



綺麗なハリのある白い肌をした彼女。
悲劇の末路が紐解かれようとしていた。

「分かった、じゃ…ぜんぶ言う」

彼女は、意を決して、しかし能面のような顔で、語り出した。

「私、一年前に彼氏と別れたって言ったじゃん?それでその後、出会い系ではこれまで7人くらいと会った。けど一度も最後まではいかなかったってさ…。あれ嘘なの」

「うん」僕はいくつかの嘘のパターンを瞬時に浮かべた。まぁ出会い系であった女の子だ、一回くらい他の男とヤッているだろう。

「ホントは今彼氏いるの」

「え、そっちの方向性?」という言葉が出るか出ないかを待たずに彼女は続けた。

「付き合って二週間の彼がいるんだけど、なんかいまいちつまんなくて。彼とも出会い系なんだけどね。で、出会い系では前彼と別れてから15人くらいと会ってて、うち12人位とその日にエッ●したの。前彼としたのが勿論最後じゃなくて最後は…」

ここまで一息で言い放った彼女はここで少し間をおいた。先が気になった僕が誘導することにした。

「3ヶ月前とか?」

「…ううん10日前」

「ちっか!!」突っ込まずにいられなかった。もちろん男性器をではない。

「今の彼氏とエッ●した後、ちょっとけんかして飛び出して、むかついたから、その日に近所の男と出会い系で会って3回したの。全然イケてない人だったけど笑 あ、前彼とわかれたのは一年前ってのはほんとだよ」

つ、突っ込みどころがいっぱい…。
十五分前にショットガンを放った僕に、彼女から向けられたのは、RPG-7対戦車ロケット弾だった。

それから彼女は今も常時6~7人と連絡をとっていることを明かしながらスマホをいじり始めた。ターゲットチェンジの時が来たようだ。分り易すぎるぞ!

しかし僕は正直そこまで驚かなかった。何度も言うが、出会い系で出会った女の子なんだから。これはたしかに悲劇だ、だが逆に僕自身もついていた嘘を、二人して棚卸して精算しているだけに過ぎない…と思いたかったのだが…。
彼女は続けた。

「でも正直、オズくんが全部女関係言ったときはマジでむかついた。それでもいいかなって一瞬思ったけどダメだった。それまではほんとにいい人だったし、話してて楽しかったし久しぶりに付き合いたいって思ったんだよ?」と。

「え?でもこれまでも10人以上とすぐホテル行ってたんでしょ?」

「そうだけど…でもこんなに楽しかったのは初めてだったし」

「それは僕もそうだよ。出会い系で中々こんなに気の合う人っていないよね」

「そう!いないよね!」

…結果、ゲス二人がディスり合いながらも、なぜか共感へと向かうという、ケミストリーがここでおきた。隠すものがなくなったセックス後の男女間には、妙な魔物が住んでいるのだった。まさかのセカンド・ラポール(僕の造語です)の到来である。
更に彼女は続ける。

「てか今日、生理きてマジかって思ったもん!なんで今日に限って、みたいな。気兼ねなくしたかったのに」

…道理で生理グダがなかったわけだ。そして僕はひとつ気になったことを聞いた。

「てかさっきイケてない人とセ_クスしたっていったけど、君は誰とでもするの?(こんなことを聞く辺り、やはり僕は男であるし、お前が言うな、と淑女の皆様から抗議が来ても平謝りしかできない。だが人というのは総じて自分を棚上げする生き物だ)」

「ううんしないよ、その時は仕返しみたいな気持ちとかあって。あ、でも鼻高めで身長高めなら、まぁいいかなって」

それをほぼ誰とでもすると言うんでないかいお嬢さん?
しかしそれで救われる男もいるので、世の中が回っているとも言える。…僕のことか?

深海の底は大分水が抜けて浄化されているように感じた。透明感が増し、光線が揺らいでくるような。むしろ温まってきたとさえ感じた。重苦しい雰囲気がやわらいでくる。
だがこの後、水温の上昇が急激に進み、僕が熱湯地獄に堕ちるまで、そう時間はかからなかった。僕は彼女を自身の排他的経済水域に誘い込んでいたはずが、気がつくとそこは彼女のキッチンの鍋の中だったのだ…。

 


ほんとうの悲劇はここから始まった。



時計は四時を回っている。


「てかオズ君は慣れてるなって思ったよ。出会い系にはあまりいないタイプかなって」

彼女の話を聞く限り、出会い系で出会った男の殆どは話が面白くもないし、リードもしない。ダサめで、地味めな人が多かったそうだ。会っていきなり頬を舐めよ うとしてきた奴もいたようだ。それはほとんど犯罪者じゃないか。え、てかそんな中10人以上と寝たとか…。なんだか社会が歪んでいるなと、酷く実感した。
それに、稚拙なナンパ師ビギナーの僕ですらいい男なのか…ウレシイような、虚しいような。

「そういえば君こそ自分から手をつないできたね」僕は思い出した。

「だってなんか前の彼氏とはどっちの手をつないでたの?みたいなじれったいこと言ってるんだもん、さっと繋げばいいのにさ」

ルーティン→じれったいこと扱いになりました。


少し消沈しつつも、僕は、僕が優位に立ってこのアポというゲームを進めていた事の確認作業に移った。こうなれば全て聞いてやる。セ_クス後のセカンド・ラポールのなせるワザだ。

「でも君はなんか色々恥じらってたじゃん。御飯食べるときとか照れるって言ってたし、キスとかも一瞬プイってされたから、嫌なのかなって思ったよ」
どうだ、乙女心は正直なもんさ、という思いだった。しかし…

「え、恥じらったら可愛いと思ってくれるでしょ?演技だよ、当たり前じゃん笑。あのタイミングで恥ずかしいわけ無いじゃん。キスするときも恥ずかしいフリしてワザと反対向くの。それでそこから強引にキスされるのが好きなんだ。あのベンチそれにピッタリの場所だから!」

…コイツはなにをいってるんだ?
ていうか僕が彼女を「キスルーティン」にはめてたはずが、彼女が僕を「強引にキスしてもらうルーティン」にはめていただと!?しかもシチュエーション込みの完璧なルーティン…。なんだか、体がじわっと熱くなった。

「あと、このデートコースもいつもなの。散歩して、ご飯食べて、あの公園行って、楽しければLH。楽しくなければ途中で終わり。今日は楽しかったし、なんなら付き合えると思ったのに~」

RPG-7、いや、もはやこれは朝のナパーム弾。沸騰した鍋で僕を茹でていた彼女の正体は、カーツ大佐だった(映画・地獄の黙示録参照)ワルキューレの騎行が、高らかに鳴り響き、あらゆる稚拙なルーティンが焼き払われていった。

…完全に僕、ピエロやないすかーーーー!!!!

これなんでんねん!

もとい、なんでんねんこれ!!




…これが、これこそが、本当の悲劇だった。

PUA=ピックアップアーティストの端くれとしてこんな悲劇はない。
いつも主体的に、それがPUA。
いつも優位に、それがPUA。
計算しろ、それがPUA。
これ、PUAというより=ぷあ、やないか。
僕はカッコつけたPUAのつもりが、ただのぷあだった。
僕はこの"逆"雰囲気ぶち壊しルーティン(本来はいい雰囲気を敢えてぶち壊して、女性を気まずくさせた隙を突いてセ_クスに持ち込む)を喰らい一瞬本気で帰りたくなった。
急速に相対性の時間感覚が早くなったのか、時計は既に朝の五時近くを指していた。

そしてここでもこんな言葉を思い出した。

チャールズ・チャップリン

「喜劇は距離をおいて人生を見ることであり、悲劇はクロース・アップされた人生である」



…あの時悲劇だった出来事が、今、喜劇にしか見えない。




その4へ続く…。