出会い系の罪と罰と、罠。その1

7月某日、夕方、あまり慣れない某ターミナル駅に降り立った。
梅雨時に訪れた久しぶりの青空、絶好のデート日和。
僕は電話をしながら人混みをかき分け、相手を探した。
白いブラウスに花柄のひらっとしたミニスカート、今時の女子大生が、僕の電話とシンクロして目を合わせた。
出会い系アプリで知り合った女の子とのアポだった。スト値でいえば6くらいか。

彼女は約一年前に彼氏と別れたらしい。最後にセ_クスしたのもその彼が最後で、その後は寂しくて、出会い系ではこれまで7人くらいと会ったが一度も最後まではいかなかった、と言った。これが後に僕に最大の悲劇的事件を起こさせるとは、この時思いもよらなかったのだが…。



そして、晴天のもと、笑顔だった彼女は、8時間後に僕と交わり、やがて涙を流した…。

 

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Photo by Angus柒

 


颯爽となだれ込んだホテルのベッドで彼女は、服を脱がしだした僕にこういった。

「付き合ってない人とするの?」

いわゆる、付き合わないとしないグダの一種だ。
一瞬返答に戸惑うが、僕は答えた。

「僕はどんな相手とも付き合う前にセ_クスするんだ。ベッドでの相性は大切だから。」

これはある種の本音でもあるし。でも本来ならこのグダには答える必要すらない事がしばしばだと思う。笑顔でスルーし行為を続行。キスしてしまえば後はなし崩しだ。契約を結ぶから破棄する時に揉める。ずっと一緒にいたい、付きあおう、すきなんだよね?、大切にしてね!
…無用な契約はお互いを苦しめる。短時間で結ばれる重大な契約は詐欺でよく行われる行為だ。
破棄しないためには沈黙でスルー。
・・・今回はできなかったわけだが、相手の言い方や態度からしても、強烈なグダではない。むしろ形式だった…はずだった。


結局彼女は積極的で、あっという間にみだらな行為が終わり、リーセだった彼女と僕は、ライクア殺人現場を殺し屋並に素早く処理しキングサイズのベッドで横になった。どんな馬鹿でも賢者になれるという至福の瞬間である。

静寂を破ったのは彼女だった。そしてそれが最初の悲劇の始まりだった。

「付き合ってくれるんでしょ?」

きた…と思った。同時に、いや、んなこと言ってないけどなマジで、とも思ったが。
僕は回避法を考えだす。

「付きあおうよ!ねぇ、付き合お!付き合えると思ったからしたんだよ?普通しない、初めて会った人とは。。」

勢いのいい語気で始まった彼女の言葉は、僕の沈黙とともに憂いを帯びていく。

「何とか言ってよ。。」

細心の注意を払いながら、僕は正直に「付き合えない」といった。
「今は仕事が忙しい、集中したい」と。この発言も墓穴を掘る事になった。

「は?それがわかってるならはじめからしなくていいじゃん。」

ごもっともだ…。

「てか忙しいなら女と遊んでないでいますぐ仕事しなよ。」

正論すぎて僕はもはやピエロ状態。中途半端な言い訳をした1分前の自分を絞殺したくなった。
1分でがっけぷちだ。一寸先は闇とはよく言ったものだ。着地点や結果を考えないグダ崩しの末路だ!さすが素人の自分!


その後も執拗に迫ってくる彼女。なにもないなら付き合ってくれてもいいじゃん、仕事が落ち着いてから相手してくれてもいいし。好きなんだよ。。
言葉を詰まらせた彼女は…遂に泣きだした。布団で顔を覆って肩を引くつかせて鼻水をすすっている。
最悪だ。行為の後の甘美な空気がどんどん凍りつき、張り詰めていく。賢者が愚者に早変わり。

そして皮肉にもアインシュタインの言葉を思い出した。


熱いストーブの上に一分間手を載せてみてください。まるで一時間ぐらいに感じられるでしょう。
ところがかわいい女の子と一緒に一時間座っていても、一分間ぐらいにしか感じられない。
それが相対性というものです。


 


午前二時半、時間が急速に遅くなってきた。崇高な相対性が、バブルの名残を残したホテルの一室を覆い尽くしていた。
そしてこれは、ハタチそこそこの純真な女の子の心を傷つけた自分に、食らわされた罪と罰だった。
ワンナイトラブに亡霊のように付いてくるこの負の遺産。僕は正直事態をスルーしたりあしらって狸寝入りするのができない性格だ。かと言って逃げ出すことも。
そして自責の念に襲われ、こんな目に合うんだったらナンパも出会い系も二度とやるもんか。そう本気で思っていた。
ただ五分とか十分ほど女の子と合体したいだけでこの罰は重すぎやしませんか…。



僕は相対性の時間の中でもはや重圧に耐えられなくなっていた。僕はもう性交遍歴を正直に暴露するほうが、下手な言い訳より事態を解決するのにたやすいと判断した。
そ して僕はせきを切ったように、彼女に出会い系で何人もの女に会っていることやナンパしていること、特定の彼女がいらないこと、それら全てを話した。マシン ガンと言うよりもショットガンのように一発で仕留めるがごとく。ドン引きして欲しかった。こんなクソッタレをドブにでも捨て去って欲しかったのだ。


沈黙。


相対性の闇。負の遺産罪と罰


尚も沈黙が続いた。


静まった彼女の方を恐る恐る見ると、狙い通りだ、ドン引き。
そして僕の心は終息しだした事態に安堵し始めた。

「わかった」

彼女のこの言葉で時空間がゆっくりと加速し始めたのを感じた。

「わかった、もういいや」

明らかに声のトーンが変わる。諦めのサインだった。
この時を待っていた。恐らく、女の子とのアポなどで闘うべき最大の技術的な壁がセ_クスするまでだとすれば、精神的な壁はこれだ。そして僕はこれでその壁を飛び越せたのだった。
そうだ、そう、なんと言い訳しようがただ色んな女とヤリたいだけの僕のことを愛しても意味などないのだ!悲劇はここでおしまいだ!

「わかったから…じゃ、私のことも言っていい?」

「え?うん。」

「いや、もうワタシも正直に言うね」

ああ、ホントは付き合ってとか言うのはただ寂しかったからなの、みたいなオチでしょ?と想像していた僕は本当の悲劇の始まりを知る…。





その2に続く…。